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6ー9 偶然の産物

 「調色」という生徒会誌の存在を知ったのは、この中学に入学して一ヶ月が過ぎたあたりか。ある日突然、前年度に発行されたものが一年生全員に配布された。ぱらぱらとページをめくってみたが、載っているのは知らない先生や先輩のことばかりで、大して面白味を感じなかった。教室にも置き場所はないし、家に持ち帰ってもそのうち部屋の隅に追いやられて埃をかぶることになるだろう。そう、俺にとって「調色」は、最初はその程度の価値しかなかった。

 ところが、授業を受けたり、部活や委員会に入ったりして、いろんな先生や先輩の顔と名前を覚えると、それまでの評価ががらりと変わった。知っている名前を見つけるだけでも楽しいし、文章からはその人の意外な一面も明らかになったりする。この学校で人と関われば関わるほど、俺にとって「調色」は面白いものとなっていった。

 いつしか俺は、この生徒会誌の制作に関わりたいと思うようになっていた。

 調色編集委員会は、その名の通り生徒会誌の制作を担当する委員会だ。前期生徒会にはなく、後期生徒会にしか設けられない。受験がある三年生は後期は生徒会に参加しないので、調色編集委員になれるチャンスは中学生活で二回しかないことになる。

 一年の後期、俺はクラスの学級代表に選ばれてしまったので、調色編集委員になることはかなわなかった。チャンスはあと一回になったわけだが、俺は焦ってはいなかった。なぜなら俺は、文芸部の次期部長になることが確実だったからだ。

 部活動オリエンテーションでこの学校に文芸部があることを知った俺は、迷わず入部を決めた。小学生の頃、児童文学が好きでよく読んでいた俺は、漠然と小説家になる夢を思い描いていた。そのためには、もっといろいろな本を読み、文章を書く必要があると思った。部員が同じ本を読んで感想を語り合う読書会にも興味があった。

 入部した文芸部で、俺はすぐに頭角を現した。

 市内の全中学校が参加する夏の作文コンクールで、俺の書いた作文が優秀賞を獲ったのだ。文芸部員全員が応募したなかで、ここまで大きな賞をもらったのは俺一人だった。惜しくも最優秀賞には届かなかったが、入部一年目にしては目覚ましすぎる活躍といえるだろう。

 そんなわけで、一年の夏休みが終わり二学期が始まる頃、俺はその文才と人を引っ張っていくリーダーとしての素質を買われ、次の文芸部の部長となることが決定的となり、二年生になるのと同時に、先輩からその座を引き継いだ。部内でこれに異論を唱える者は誰もいなかった。

 文芸部の部長は、必ず調色編集委員になることが決められている。先輩から聞いた話だ。なぜなのかは分からないが、文芸部の伝統というか、暗黙の了解のようなものがあるらしい。ありがたい。そんなものがあるおかげで、俺は他人と余計な争いをしたりせずにあっさりと調色編集委員になれるわけだ。

 もし俺のクラスで他に編集委員になりたい人がいたら気の毒だなー、なんて思っていたのだが。


「調色編集委員になりたい人、誰かいませんかー?」

 二年の後期、ここは俺が在籍する三組の教室。誰がどの委員会に入るのかを決める時間で、学級代表がクラスに呼びかける。

 俺は無事に調色編集委員になれてほっとしていた。しかしどうしたことか、俺とペアになる女子が決まらない。

 各委員会には二人ずつ入るのが決まりだ。その二人は同性はだめで、男子と女子に分かれていなければならない。

 俺は思ったよりみんなの「調色」への関心が低いことに驚いていた。誰も手を挙げたがらない。どうやら、このクラスで生徒会誌作りに意欲的なのは俺だけのようだった。

 いや、これはひょっとすると、俺の人気がないのか? 俺ってそんなに嫌われてるのかなあ。そうだとしたら、ちょっと泣きそうなんだけど。

 結局、編集委員のあとひとりは、ランという女子に決まった。あまり話したことはないが、普段から態度の悪さが目立つやつだった。この女子も俺のことを嫌っているのだろうか。ずいぶんと嫌そうな顔をしていた。

「よろしく」

 俺は精一杯の笑顔を心がけてランに歩み寄った。するとランは「ちっ」と舌打ちを漏らした。

 おいおい、こわいって。こいつ、不良か?

 念願の編集委員になれたというのに、先行きが心配になってきた。「調色」は何代も続いている伝統ある生徒会誌だ。これまでのものと比べても、恥ずかしくない仕上がりにすることはできるのだろうか。

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