6ー6 偶然の産物
仕事が終わり、私とランはロベールのカフェ「コロンボ」に向かった。
店内に入るとすでにヤツエさんはテーブル席に着席していた。彼女は私たちを見ると椅子から立ち上がった。
「ラン! 久しぶり!」
「……元気そうね」
「高校卒業以来じゃない? あらら、あれからランもすっかり年齢を重ねたね」
ヤツエさんがランの全身を眺めて言った。
「そのセリフ、そっくりそのままお返しするわよ。ちょっと肌、くすんでない?」
「ひっどーい! モナミさんは若い人にも引けを取らないって言ってくれたのに!」
「モナミ、そんなこと言ったの?」
お互いに挨拶のように憎まれ口をたたきあう。気を許した者どうしだからこそできるやりとりに思えるのだが、本当に仲が悪いのか。
「お二人とも、まずは座りましょうか」
私は着席を促した。二人の関係性がまだよく分からない。それでも、顔を合わせればどことなく緊張感が漂う。
ロベールが注文を取りに来たので、私はいつもの、と言っておいた。
「うちで婚活するんだ?」
「そう」
「オミオの結婚式に行ったんだって?」
「まあね。ランはどうして来なかったの?」
「私は……あの二人の馴れ初めは知ってるし、その気になればいつでも会えるから」
「ズルいなあ、ランは。昔からそう」
沈黙が降りてくる。なんという空気だ。私は見かねて話を本筋に戻した。
「ヤツエさん。ランに聞きたいことがあったんじゃ……」
ヤツエさんはそうだった、と言って自分の鞄から何かを取り出した。
「これなんだけど」
差し出されたそれは、薄い冊子だった。
表紙に「穀粒」という題字がある。
「これは?」
「カナヅ高校が毎年発行する生徒会誌。これは私とランの卒業年度の号」
私は手に取ってページをめくってみた。
はじめに校長、生徒会長のことばがあり、生徒会の一年のあゆみ、学校行事の名場面集、各クラスと部活動の紹介など、見た目よりも盛りだくさんな内容となっている。先生へのインタビューもあった。
「ラン、私が何を言いたいのか分かる?」
「……あれのことかしらね」
再び沈黙が流れる。二人には通じ合うのかもしれないが、私には何が何だか分からない。
「えっと……あれとは何ですか?」
私は説明を求めた。
「モナミさん、三年二組のクラスを紹介するページを開いてみて」
ヤツエさんに言われて、そのページを開く。
「生徒ひとりひとりのコメントが載ってるでしょ。オミオくんのを読んでみて」
三年生のクラス紹介は特別で、ひとクラスニページが割かれている。全員が写された写真または描かれたイラストと、クラスメイト全員の一言、担任のことばが掲載されている。
一言のテーマは「十年後の自分へ」。私はオミオくんのものを探した。
あった。しかし、読んでみたものの、意味が分かりかねる。短くて、難しい文章というわけではないが、卒業生の言葉としては少し変わっている。オミオくんの言葉はこういうものだった。
「朝食は完成してますか?」
私は顔をあげて、ランとヤツエさんの表情をうかがった。




