2-2 婿に来ないか
レイダンの改革が始まった。会議で追加するプロフィール項目や身元を示す際にどのような書類の提出を求めるのかが話し合われ、内容が決まると、すぐに全会員に通知を出した。すると、理解が得られた会員から、徐々にレイダンへ足を運んでくれる人が出始めた。協力的な会員がいる一方で、プロフィール書き直しや必要な書類の作成が困難な会員には、残念ながらこれまでの会費を返金したうえで退会の手続きを取らせてもらった。この人数は意外と少なくて、レイダンとしてはありがたいことだった。
着々とプロフィール一新が進むなかで、私はというと、現在担当している会員がいないので、事務室の自分のデスクでレイダンのブログを作成していた。本文を書き上げると、少し悩んでから、タイトルに「レイダンは生まれ変わります!」と打ち込んだ。内容は、失墜したレイダンの信用を取り戻すためにも、イメージアップを意識して、新しくなる利用方法や料金を説明したものになった。
私は出来上がったブログを「大丈夫!」と保証してほしくて、たまらず隣の席に座っている同僚に意見を求めた。
「ラン、これでどうかな?」
ランは私と同い年の結婚相談員で、今はレイダンの公式SNSでの情報発信を担当している。彼女は私の書いたブログの記事をまじまじと見て、こう評した。
「悪くはないけど、少しまじめすぎない?」
どうやら私の書く文章は堅苦しくなりすぎるきらいがあるらしい。ランは少し表現をくだけたものにしたり、絵文字を入れたりすることで、全体的に華やかな感じにしてみせた。
驚いたのは先日の会員が大量退会した事件に触れてブログのネタにしたことだ。失敗をあえて隠さない。開き直ったともとらえられかねない堂々とした書きっぷりに、私は度肝を抜かれた。その発想はなかった。
「うん。だいぶとっつきやすくなったんじゃない?」
ランのおかげで、この記事は親しみやすくなった。だが、私の中にはひとつの懸念が生まれていた。この文章を読んだ誰かは、書き手である私という人間を誤解するかもしれない。
実際は二人で書いたのだけれど、読む方にとってはそんなことは分からない。不謹慎で、軽薄なやつ、という印象を与えるかもしれない。このブログで私一人だけが非難されないだろうか。
すると、ランはそんな私の心を読んだかのように、ツイッターで「ブログを書くのを手伝いました! 是非読んでみてくださいね」とつぶやいた。ランはにこっと笑って、その画面を私に見せた。
私は数分前の浅ましい思考に陥っていた自分を呪いたくなった。うん、しゃきっとしよう!
これは私とランが知恵を絞って出来たいわば合作だ。どちらかが欠けていればこの記事は出来上がらなかった。そう思うと、なんだか愛おしく思えて、不思議と満足することができた。