5ー終 姻族になろうよ
その日曜日は、雪解けが進みそうな穏やかな晴天となった。
レイダンの駐車場に一台の車が停まった。レイさんの車だった。運転席からレイさん、助手席からマノさんが降り、姿を現した。
結婚を決めた二人は、いまがとても幸せであることを心底から表現したような、晴れやかな表情を浮かべていた。
私とランは二人を、相談室Bへと案内した。
相談室Bには、もともと椅子がいくつか用意されていた。机を挟んで私とランが並んで座り、その向かいにマノさんとレイさんが座った。私たちは改めて、二人から結婚の報告を受けた。仲睦まじい様子に、思わず顔がほころんだ。
「ご結婚、おめでとうございます。心からお祝い申し上げます」
「ありがとうございます。お二方がいなかったら、たぶん僕たちは結婚できていませんでした」
ランが私にちらりと一瞥をくれた。
「結婚式は挙げられるんですか?」
「いえ、しないことにしました。春に引っ越しをして、同居生活を始めます」
「ご実家を出られるんですね……」
それはマノさんが当初から望んでいたことだった。でも不思議なことに、その決断に一抹の寂しさを感じた。
「はい。やっぱり家族とは少し距離を置きたいなって。でも、私はもう、関係を断ちたいとは言いません。向き合っていきます。私の家族に、これからも、ずっと」
しばらく見ない間に、マノさんの線が太くなったような……。頼もしい限りだ。
「この三ヶ月を振り返ってみて、どうですか?」
レイさんが答えた。
「そうですね……。まだまだ僕には、知らないことだらけだと痛感した三ヶ月でした。彼女と出会わなければ、知らないまま過ごすところでした」
「いつだったか彼に聞いたことがあります。どうしてこんなに面倒臭い女の事情に首を突っ込みたがるのって。そしたら……」
「何て答えたんですか?」
ランが身を乗り出した。
「とにもかくにも、マノさんのことが好きだからって……」
「えー、それはお熱い……」
まるでドラマの告白シーンを観た時のように、ついにやけてしまった。マノさんもさぞ嬉しかったのではないか。
「でも、そのあと私は言ったんです。好きという気持ちだけで乗り越えられるほど、家族の問題はやさしくないって」
「僕はこう答えました。それだけで乗り越えられるとは思ってない。困難にぶつかったときに何ができるのか考え続けることと、解明するための努力を惜しまないこと。きっとこの二つが乗り越えるために大きな役割を果たすんだと」
「そんなやりとりがあったんですね……」
この三ヶ月の間に二人が交わした言葉に思いを致した。メールには書ききれなかったことが、まだまだありそうだった。
「プロポーズの言葉は、どんなものだったんですか?」
「プロポーズは僕からでした。今はまだ、すべての不安が取り除かれた状態ではないのは分かってる。それでも僕は、マノと家族になりたい。どんな荒波も一緒に乗り越えていく、強くて、しなやかな……幸せな家族になろう、と」
「私は、どうぞよろしくお願いします、と」
「はあー……」
私は胸を打たれていた。ランも同じ思いだったと思う。愛が実る瞬間って、こんな感じなんだ。
「もう……私だけのものだったのに」
マノさんがレイさんをひじで小突いた。そうか、私たちはいろいろと聞き過ぎたようだ。デリカシーがなかったかもしれない。
このあと、二人から成婚料を受け取り、退会手続きを滞りなく完了させた。
いよいよ二人がレイダンから巣立っていく。あれだけ寄り添っていたのだ。感慨もひとしおだった。
「改めて、おめでとうございます。この三ヶ月、私も幸せでした。どうか素敵なご家庭を築いていってください」
私の目から涙が零れ落ちそうになった。私は瞬きを繰り返した。
「先生、お世話になりました。本当に何とお礼を言ったらいいか分かりません。これから家族がどうなっていくのか、正直なところ見通せません。家族って、予測不能なものだから。でも、未来はよくなっていくと信じています。メドがつく前に結婚する私たちには、この先もさまざまな試練が待ち構えていそうです。私も、私を取り巻くこの環境も、まだまだ不完全だけど、精一杯やって、乗り越えてみせようと思います」
最後には、このマノさんの決意表明を載せようと思っていた。このあと私たちは駐車場まで出て、二人が乗った車を見送った。
私がレイダンに来て、ようやくあげることができた成果。私の方こそ、マノさんからたくさんのものを受け取った気がする。
これで、彼女の婚活の物語は終了となる。婚活が終わったあとは、家族の物語が続いていく。
せっかくだから、この物語につけるタイトルを考えてみようか。
二人が歩んだ恋路には、さしずめ、こんなタイトルがふさわしい。
雪解けを待たずに、姻族になろうよ。
成婚おめでとう。




