5ー13
マノさんの背中を押してあげるには、どんな返信を書いたらよいか。その内容を考えるために、私は作戦会議を開くことにした。ランに声をかけて、一緒にロベールの喫茶店「コロンボ」に向かった。
ランチの時間帯だったが、相変わらず店内はがらんとしていた。
「いらっしゃいませ」
ロベールの落ち着いた声が私たちを出迎えた。布巾でカップを拭く手を止め「お好きな席へどうぞ」とお辞儀をした。
「私たちだけの時はそんなに丁寧にしなくてもいいのに」
ランが半ば呆れながら言った。ロベールもあまりに客が来ないので接客態度を改めようと必死なのかもしれない。
鋭いロベールは私たちの用向きを察してくれたらしかった。いつも三人で話し合う時に使っているカウンター席のスペースを空けてくれた。
「それで今日は、どんな話を聞かせてくれるのかな?」
席に着くと、カウンターの中からロベールが尋ねた。
「実はね……」
とその時、ドアベルの音が勢いよく鳴り響いた。そうして店内に進入してきた人物を見て、私は目を剥いて驚いた。
「これはどうも、モナミどの」
一度会ったら忘れられない、ジョー大師が私を見て微笑んだ。
「どうしてここに……?」
「このあたりに用事があって、その帰りだ。そしたらたまたま知った顔を見かけて、声をかけようとしたら、なにやら良さそうな喫茶店に入っていくではないか。いやいや、なかなか洒落た店内だ」
大師は珍しそうに店の中を見渡した。
「この店の良さが分かるとは……さすがはジョー大師」
「貴殿がこの店のマスターか」
「いかにも。僕はロベール。大師のような高名な占い師がこの店に来てくれるなんて、夢にも思わなかったよ。どうぞこちらへ」
ロベールは大師を私の隣の席に座らせた。
「モナミどのは高尚な趣味をしておられる。恐れ入る」
「モナミ、いつの間に大師と知り合ったんだい」
ロベールが興奮気味に聞いてきた。
「そっか。ロベールには話してなかったね。まだ世間にも公表してないんだけど、開発中のアプリを使ったイベントを企画していて……」
きっとロベールは身を乗り出して聞いてくるに違いない。そう思ったが、ロベールの反応は薄かった。
「アプリか……。僕には縁のない話だな」
「えっ、どうして?」
「アプリって、インストールする時やたら長い利用規約を読まされるだろ? あれが嫌で、僕は極力アプリを入れないんだ」
「えー、あれって読まなくてもいいんじゃない?」
ランがそう驚きつつ、ロベールの考えに関心を示した。
「性分かな。何でも把握しておきたくなるんだよ」
「マジメねえ……」
私は笑いながら二人の会話を聞いていた。考え方がまるで違う二人だが、楽しそうに話しているのを見るとほっこりする。
「ところで、今日は何の集まりかな?」
コロンボを気に入ったらしい大師にそう聞かれて、私はこの店に来た目的を思い出した。しかし、大師の前で話すわけにはいかないことなのだが。
「モナミ、相談事なら、ジョー大師にも聞いてもらうのはどうかな」
「えっ……」
ロベールのその提案に最初は戸惑ったが、すぐになるほどと思い至った。新聞の人生相談も担当していて多くの悩みを解決に導いてきた大師の力を借りようというわけだ。
「いいのかな……」
「この店でお見合いしたあの女性のことだろう? 家族のことで悩んでいるという。家族に関する相談は、大師が最も得意とする分野だ」
「そうなんですか?」
私は横にいる大師の顔を見た。大師は大きく頷いた。
「拙僧は、その手の悩みはできる限り聞くようにしている。拙僧自身が抱える問題の参考にするためにな。ぜひ聞かせてほしい。もちろん、他言はしないと誓おう」
「そういうことでしたら……」
私は話し始めた。




