5ー10
翌日の夕方、私のパソコンがマノさんからのメールを受信した。
そのメールでマノさんは「先生、昨日はお世話になり、ありがとうございました。今日の昼過ぎにレイさんから電話があり、今週のどこかで予定を合わせて二人きりで会うことになりました。そこでお見合いの席で言っていた本を貸してくださるそうです。ちゃんと約束を守る人で、安心しました。どんな本なのか分かりませんが、私は感動できるでしょうか。レイさんは私に、素晴らしい話だった、と言ってほしいのでしょうか。私にはレイさんが期待するリアクションができる自信がありません。先生、私はどうすればいいでしょうか。また、私もレイさんに何かすべきなのでしょうが、何をすればいいでしょうか。アドバイスがありましたら、よろしくお願いします」ということだった。
私は「いよいよお付き合いが始まるのですね。レイさんの本についてですが、レイさんは懐が深い方ですので、マノさんの好みに合わなければ、正直に面白くなかった、と伝えても大丈夫だと思います。ですが、これはレイさんの趣味を知るチャンスでもあります。まだまだお互い知らないことだらけなので、焦らず、自分たちのことを語っていきましょう。マノさんもこれまで何に心を動かされたのか、教えてあげてみてください。感動というものは、分かち合えればそれだけ大きく膨らみます。二人で一緒に感動できるものを見つけられるとよいですね。レイさんを知ることと、マノさんについて教えること。レイさんのためにすべきなのはこの二つだと思います」と返事を送った。
マノさんからは「アドバイス、ありがとうございます。今の私にはとても身に染みる言葉でした。その日は、先生のアドバイスを胸に臨みたいと思います」とあった。
私は「マノさんの力になれたようで、うれしく思っています。お見合いのあとレイさんに会うのはこれが初めてでしょうか。レイさんとの最初のデート、おおいに楽しんできてください」と送った。
マノさんから「先生、まだまだ雪の予報が続きますね。先日のデートの件、報告いたします。デート、と呼べるのかは分かりませんが、レイさんは忙しいらしく、二人で会えた時間はわずかでした。喫茶店に入ってお茶しただけです。そこでレイさんが貸してくれた本は、いろいろな賞を取り映画化もされて、私でも知っていた有名な作家が書いた本でした。ですが、こんな機会でもなければ手に取っていなかったと思います。読んでみると、確かに引き込まれました。これがベストセラーになった本の面白さか、と。私はひねくれていたのかもしれません。世間との感覚のずれを正されたような気分になりました」と。
私は「そうですか。デートと呼べるのか怪しかったのですね。交際はスタートしたばかりです。焦らずにいきましょう。読書は思いのほか楽しめたようですね。ここだけの秘密にしてほしいのですが、レイさん担当のランに聞いたところ、レイさんは悩みながらその本を選んだそうです。次の機会に、お礼とマノさんの感想を伝えるとよいですね」と送った。
マノさんから「あれから、レイさんとはなかなか会えていません。ですが、コミュニケーションアプリでのやりとりはしています。探り探りですが、先生から言われたことを意識してやっている感じです。そのなかで、レイさんから映画に誘われました。今からどきどきしています。先生から見て、交際のペースは早い方でしょうか」と。
私は「会えていないのは気がかりですが、ここまで順調にいっているようで、なによりです。レイさんはマノさんとの仲を丁寧に進展させていっているようですね。交際のペースは、問題ないと思います。映画を楽しんできてください」と送った。
マノさんから「先日のデートの件、報告いたします。久し振りにレイさんに会いました。レイさんはいつも温かみのある言葉をくれますが、実際に会ってみると安心感が違いました。ショッピングモールで待ち合わせて映画館に行ったのですが、レイさんは何を観るか、私に選ばせてくれました。正直、どれでもよかったのですが、私はある作品を選びました。それほどヒットしている作品ではなかったのですが、内容はほどよく楽しめるものでした。感想らしい感想はなかったのですが、こうして誰かと映画を観て思ったことがあります。レイさんと交際して、自分の時間が奪われる感じと、新しい世界が開拓されていく感じ。人と関わるってこういうことかもしれません。きょうだいとの関係でもあったことですが、一人ではたどり着けなかった場所に思いもかけず連れて行ってくれる。私はいつの間にかそれを恐れて、一人で過ごしたくて、ずっと鎖国していたんです。でも、そんな状態から連れ出して世界を広げてくれる存在って、すごく貴重だったんだなって。レイさんのおかげできょうだいがいたことを肯定的に捉えることができそうです」と。
私は「それはレイさんに伝えましたか?」と送った。
マノさんからは「まだです。すぐに伝えます!」であった。




