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「もちろんです。何が知りたいですか?」

「児童養護施設ってどんなところなんですか?」

「児童養護施設では、何らかの事情により家族と暮らせない子供が一緒に生活しています。僕たち児童指導員が保護者の代わりになって、彼らの日常生活を手助け、指導して、成長を見守ります。環境は違うかもしれませんが、目指すところは普通の家庭の子育てと変わらないと思います」

「集団生活ってことは、トラブルもそれだけ起きやすくなりませんか?」

「そうですね。でもそういうときは、ルールを決めたり、子供を諭したりすることで、なるべくわだかまりが残らないように解決することにしています」

「なんだか、私の家族よりちゃんと家族してる……。いい環境ですね」

「どうでしょうか。いろんな事情を抱えた子が多いですから、思うようにならないですし、いざというとき親に頼れないのは、やっぱり心細いと思います」

「レイさんに頼ってこないんですか?」

「そうですね、なかなか……。頼られる存在でいたいとは思ってるんですけどね」

「レイさんは頼りがいがある人だと思います」

「そう言っていただけてうれしいです。でも僕も、駆け出しの頃は大変でしたよ。何しろ三人家族だったもので、大人数で暮らす大変さをまるで分かっていなかった」

「私も大家族で苦労しました。幼い弟と妹に、私と折り合いが悪い父に、老いた祖父母に。……不思議に思ったんですけど、それなのになぜ、児童指導員になろうと思ったんですか?」

「そうですね……。きっかけは、ある少女との出会いでした」

「ある少女?」

「はい。高校生の時、自転車で友だちの家に遊びに行きました。川原の土手を走っていると、強い雨が降ってきたんです。急いで向かおうとすると、目の前に小学生くらいの女の子が傘も差さず歩いていたんです。僕は声をかけました。振り向いた女の子は泣いていました。その時、僕はこの子は普通の子とはどこか違うなと感じました。でもどうしたらいいか分からず、とりあえず持っていた折りたたみ傘とあんパンを女の子にあげて、その場から去りました。この話を友だちにすると、その子はおそらく近くの施設の子だ、と教えてくれました。それから、僕の頭からはあの雨に濡れながら泣いていた女の子の顔が離れなくなったんです。気づいたら四六時中考えていました。どうしたら、あの子を救えるのだろう、って」

「たぶんきっとそれは、恋だったんですよ」

「そんなんじゃないですよ。でも、それが施設の職員を目指したきっかけですね」

「その女の子とは再会できたんですか?」

「いえ、会えていません。でも、今の僕だったら、救える気がします。その女の子も、マノさんのことも」

「えっ」

「マノさんは、どことなくあの女の子と雰囲気が似ています。僕にも教えてくれませんか。あなたの家族のことを」

「無理よ……。いくら児童指導員でも、一人っ子だったレイさんには、私のこの屈折した気持ちは分からない」

「僕はこの仕事を始めてから、多きょうだいに憧れを持つようになりました。マノさんは、僕が働き始めてから知ったことを、すでに経験しているんじゃないですか。ぜひ教えてください。マノさんが見つめてきた、家族の煩わしさとか、醜い部分も含めて」

「私で、いいの?」

「これは伝わっていなかったかもしれませんが……」

「なんですか」

「僕がレイダンに出した結婚相手に求める条件は『家族について一緒に考えてくれる人』なんです」

「私の悩みは、そんな立派なものじゃ……」

「いいえ。そんなことはありません。あなたは僕にないものを持ってる。……マノさん。よければ、僕とお付き合いしてくれませんか?」

 その一言に、マノさんは目を見開いて驚いていた。今まで自分が家族に抱いてきた鬱屈した感情が誰かに必要とされる日が来るなんて、思いもしなかったのだ。よほど衝撃的だったのだろう。彼女はしばらく言葉を失っていた。

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