5ー7
暖かい店内に冷気が入り込んだのを感じた。入店したレイさんはロベールに「こちらです」と誘導され、私たちの席までやって来た。ランも一緒だった。
「遅れてしまい、申し訳ありません」
まずはそう謝って、レイさんは私たちの向かいに座った。彼からは優しそうな人柄がにじみ出ている。人を頭ごなしに怒鳴りつけたり、批判したりする人ではないように思えた。
「ご注文がお決まりになりましたら、お呼びください」
ロベールはそう言い残して立ち去ろうとした。私はマノさんが何か頼みたそうにしているのを感じ取ったので、彼を引き止めた。
「何がいいですか?」
「じゃあ……アイスコーヒーをお願いします」
「あっ、僕も同じものを」
レイさんも注文した。きっとマノさんに合わせたのだろう。味の感想などを共有するためだったのかもしれない。
「改めまして、レイさん。こちらが、今回お見合いを申し込んだマノさんです。私は彼女を担当している相談員のモナミです」
「お初にお目に掛かります、レイです。僕を選んでいただきたいへん嬉しく思っています。今日はよろしくお願いします」
「いえ……。こちらこそよろしくお願いします」
「いやあ、こういった場は不慣れなので、緊張しますね」
「はあ……」
そばで見ていて二人ともまだたどたどしかった。遠慮しあってなかなか会話が弾まない。私はここが相談員の出番だと思った。
「マノさん。レイさんに聞きたいことはないですか?」
マノさんは少し体を強張らせた。
「そうですね……えっと、ご趣味は?」
レイさんは柔和な笑みを崩さず答えた。
「僕の趣味は……流行りを追いかけることですかね」
「流行りですか?」
「ええ。例えば、大ヒットしている映画を観に行ったり、ベストセラーになった書籍を読んだり、メディアで紹介されたグルメを食べたり……。やっぱり多くの人に受け入れられているものは、楽しさが保証されているというか……。マノさんはそういうものに興味はないですか?」
「私は……金銭的な問題もあるんですけど、基本的に自分の心に響かないものはどうでもいいから……」
「マノさんの心に響くものというのは?」
「私を救ってくれるもの」
「救ってくれるもの……」
マノさんのその一言に、レイさんは強く引き寄せられたように思われた。
「今まで、どういったものに救われたと感じましたか?」
「うーん、特にこれといって……一時の慰めにはなるけど、結局、今の生活を変えてくれるものじゃなかったから……」
「そうですか……。確かに、心配事があると、何事もうまく楽しめないかもしれませんね」
「私も、嫌なことを忘れて、素直に感動したいという気持ちはあります……」
「そうなんですか? なら、おすすめの小説がありますよ。試しに読んでみます? 貸しますので」
「ええと……ありがとうございます」
おお、レイさん、なかなか積極的だな。次に会う約束を取り付けようとしている。
「僕は、感動は誰かと共有してこそ感動と言えると思うんです。ぜひ感想を聞かせてください」
うーむ、マノさんの性格からして、こんな言い方をされてしまうと断りづらいのでは。それを察したのか、ランがマノさんに言った。
「マノさん、嫌だったら断ってもいいですからね。レイさんも。少し焦りすぎです」
「ああ……すみません」
レイさんはわずかに視線を落とした。マノさんの様子をうかがい、彼女が何か言うのを待っていた。しかしマノさんが自分から口を開くことはなかった。
「お待たせしました」
このタイミングで、ロベールが二人分のアイスコーヒーを運んできた。レイさんは助かった、とばかりにグラスに口をつけた。
「おいしいですね」
マノさんもレイさんにならって口をつけた。なぜホットではないのだろう。マノさんは猫舌なのか。
「どうですか、マノさん」
私は尋ねた。
「とってもおいしいです」
「ああ、いえ、コーヒーのことじゃなくて……。この先レイさんに会うかどうかを決めかねているなら、彼についてもっと知った方がいいのではないかと」
「いいですよ。何でも聞いてください」
レイさんの好意的な態度は変わっていなかった。包み込むような安心感があった。
「そうですね……児童養護施設でのお仕事について、聞いてもいいですか?」




