5ー5
マノさんが帰ったあと、一階の事務室に戻った私はランに事情を話し候補者選びを手伝ってもらった。
「マノさんは一人っ子がいいと言ってるけど、やっぱり彼女の心を理解できるのは、同じく大家族で育った人だと思うんだけど……」
「そうとは限らないわよ。一人っ子でも大所帯で暮らす大変さを知っている人はいる」
「例えばどんな人?」
「それを仕事にしている人とか。小さな子供を見る保育士、クラスをまとめる教師、老人を介護する介護福祉士……」
「なるほど、そう言われてみれば……」
「実は、マノさんの話を聞いて、ぱっと思い浮かんだ人がいるの」
ランはタブレットを取り出した。
「私が担当している男性、レイさん。その職業は児童養護施設の職員」
私は思わず唸った。こんな人が会員の中にいたのか。
「この人なら、複雑な背景を持つ子供に日常的に接しているし、マノさんの込み入った事情にも耳を傾けてくれると思うの」
「おお、なんだかだんだん彼女に相応しいのはこの人しかいないって気がしてきた」
私はランからタブレットを受け取り、マノさんの希望に合っているか、レイさんのプロフィールに目を通した。
年収はやや低いが、一人っ子である条件は満たしていた。ただ、この人も自分の子供を望んでいた。
「マノさんはどう思うかな」
「まずは引き合わせてみない? ひょっとしたら、レイさんと話すことで子育ても悪くないって思い直すかもしれないし」
「そうだね。うん。ランに相談してよかった」
暗かった目の前の道が、ぱあっと照らされたような気になった。光の先にレイさんがいる。これがマノさんにとってよい出会いになることを願いたい。
新しいお見合い相手の候補を紹介するため、マノさんにはもう一度レイダンまで来てもらう必要があった。これまでの面談で、私は彼女がスーパーのパートに入っていない時間帯を聞いていた。その時を見計らって、彼女に電話をかけた。
「もしもし……」
「もしもし、マノさんですか。モナミです」
「どうも……。何かありました?」
「お待たせしてすみません。マノさんに紹介したい方が見つかりました。つきましては、その確認のため、一度レイダンまでお越しいただけませんか」
「……大丈夫なんですか、その人」
「温厚な方と聞いております。この前のようなことにはならないと思います」
「また、お見合いをしなきゃいけないんですか。しばらくはいいかなと思ってたんですけど……」
「マノさんが尻込みする気持ちも分かります。あんなことがあったあとですもんね。ですが、立ち止まっている間にも会費は発生しますし、ためらっているうちに一年もあっという間に過ぎていきます。ここで一歩踏み出してみませんか」
マノさんは黙り込んだ。酷なことを言ってしまったか。
「その人は、何をしている人なんですか」
「児童養護施設の職員をなさっている、レイさんという方です」
「児童養護施設……」
「聞いたことはありますか?」
「まあ……なんとなくは」
「マノさんはこれまで、家族について悩み抜いてこられたと思います。彼は、それを仕事にしているような人です。おそらくマノさんの悩みを打ち明けても、去っていかず、一緒に解決策を考えてくれるのではないでしょうか」
「そんな人いるんでしょうか」
「まずは会うことから始まります。レイさんに、マノさんの家族観を話してみてはいかがでしょう。彼ならきっと受け止めてくれると思います。そこから結婚が見えてくるかもしれません」
「……なんだか、先生と話していると自然と勇気が湧いてくるようです。私も結婚するならこの悩みを共有できる人と結婚したい。少しくらい欲張ってもいいですか」
「いいんです。どうせなら、自分が幸せだと思える結婚をしましょう」
翌日、マノさんはレイダンに来所し、レイさんのプロフィールを確認したあと、彼にお見合いを申し込んだ。




