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街にうっすらと雪が積もった。道路を歩くのは困難ではないものの、ところどころにたっぷりと水を含んだ雪があり、何の対策もしていない靴でうっかり踏んでしまうと大変なことになる。
そんな路面の状態が悪いなか、マノさんにレイダンまで足を運んでもらった。マノさんがレイダンに来るのはこれで三度目だ。
私はエントランスで彼女を出迎えた。
「ご足労をおかけして、すみません。でもさすが、時間通りですね」
「はい。雪道で少し遅れるかなと思ったんですけど、そんなことはなく」
「電話でもお伝えしましたが……」
「私にお見合いの申し込みがあったんですよね?」
「ええ。その確認をしていただきたくて。こちらへどうぞ」
エントランスから二階へ移動し、これまでのように相談室Bに入った。彼女との面談ではなんとなくBを使い続けている。私たちは最初の面談と同じ形で席に着いた。
「では、さっそく見ていただきましょう。マノさんにお見合いを申し込んだのは、この方たちです」
私はタブレットを操作し、二人の男性のプロフィールを表示させ、マノさんに見せた。
「どうですか? マノさんの条件に完全に一致しているわけではありませんが……」
「……」
「マノさん?」
じっと画面を見つめていたマノさんは私の呼びかけにはっとして、タブレットから顔をあげた。
「すみません。こんな私にも申し込む人がいるんだと思ったら、なんだか感動しちゃって」
「自分で自分をおとしめるのはよくないですよ。もっと自信を持って」
「はい……。ありがとうございます」
心なしか彼女の表情が明るくなった。
「どちらかの男性、または両方ともとお見合いしてみますか?」
「うーん……。会うのが怖いです」
「怖い?」
「はい……。この人たちは、私に何を期待してるんでしょう」
「期待……ですか」
「なんだか……それに応えないと、幻滅させてしまうんじゃないかって」
この発言には、マノさんの人柄が表れているように感じた。
誰に対しても「いい人」であろうと無理をする。そんな性格をマノさんは自覚していて、疲れているのではないだろうか。
「マノさんがこの二人に会うことを、重荷に思う必要はありません。大事なのは、自分がどうしたいか。マノさんの率直な気持ちをお聞かせください」
しばらくの沈黙があった。マノさんはまだ決然としないようすだったが、やがてこう答えた。
「会ってみようかな」
マノさんにお見合いを申し込んだ二人の男性、その内の一人、Aさんは、子供を望んでいた。もう一人の候補、Bさんにはきょうだいがいた。二人ともその他の条件は満たしていた。
マノさんがまず選んだのはAさんの方だった。Aさんを優先させたのは、説得で考えが変わる可能性があるからだろう。きょうだいがいるという事実は、もはや変えられない。
私はAさんを担当する先輩相談員と話し合い、お見合いの場を双方の家から近そうなA国料理のレストランにセッティングした。マノさんに電話で決まった日時と場所を伝えると、それでいいです、との返事をもらえた。彼女は一度だけこのレストランで食事したことがあるとも話した。
そして、当日。私は先輩の車に乗せてもらい、そのレストランに向かった。マノさんもAさんも車を運転して向かうとのことだった。
私たちは二人よりも早く店に着いた。駐車場は狭かったが、まだ二人の車が停まれる余裕は十分あった。
少し待って、マノさんが到着した。ほどなく、Aさんもやって来た。四人そろったところで、私たち相談員は簡単に互いの紹介を済ませて、この場から立ち去ることにした。
「Aさんですね。こちらはマノさんです。本日はよろしくお願いします」
「では、あとはお二人だけで……」
お見合い時間は二時間くらいを想定している。お見合いのあと、交際するかどうかの返事はその日の夕方までに電話にて確かめる。
私は内心二人のゆくえを見守りたい気持ちがあったが、これがAさんを担当する先輩のやり方らしかった。私はそれに従うことにした。
二人が店内に入っていくのを見届けてから、先輩の車に乗り込んだ。お見合いのあと、二人から連絡があるまで私たちはレイダンで待機だ。だが、これでよかったのだろうか。マノさんは慣れないお見合いにひとり戸惑っていないか。
サイドミラー越しに小さくなっていくお店を見続けた。やがて目を転じて空を見れば、どんよりと曇っていて、今にも雪が降り出しそうだった。




