4ー終 完璧な相性
時計を見る。モールコン終了の六時までわずかな時間しかない。
私は最後までこの目で見届けねばならない使命感に駆られて、急ぎ足でオオタカくんを追いかけた。
逸る気持ちをよそに、エスカレーターはゆっくり進む。駆け下りるわけにもいかず、その間に振り切られたと思ったが、オオタカくんは思わぬ足止めを食らっていた。
誰かと会話している。
ほどなくして、オオタカくんはその人物と会話を終え別れた。
「今のは?」
「バラ・カラスさんです。エスカレーターを降りたら話しかけられました」
「もういいの?」
「ええ。急ぎましょう」
すると、オオタカくんの端末に新たな反応があった。
「あー、もう! 急いでるのに!」
そう言いつつ画面を確認する。
「モミジ・カラス。またカラスかよ! ひょっとして俺、モビングされてる?」
オオタカくんはためらわず「反応を消す」を押した。
「行きましょう! もう目と鼻の先です」
私たちは行く手を阻むかのような人混みを縫って進んだ。
いよいよ彼女に会える。彼女がそこにいるということは、オオタカくんが導き出した結論に、彼女もたどり着いたという証明になる。相性がいいからといって、そこまでシンクロすることはあるのだろうか。私はとてつもないものを目撃しようとしている。そう思うと、心臓の鼓動が早まるのを感じた。
でも、もし彼女がいなかったら?
急に怖くなった。期待は不安に取って代わられる。目的の場所に近づくにつれ増大していく。
なんだろう。まったく実感が湧かない。いよいよ会えるのに、まるで会える気がしない。嫌な予感がする……。
嫌な予感は、的中した。
その洋服店のマネキンの前には、誰も待っていなかった。
「そんな……嘘だろ……」
どれほどの失望が彼を襲っただろう。これまで彼を支えてきたものが、一気に崩れてゆく。私はなんと声をかけていいのか、分からなかった。
「オオタカくん……あの、大丈夫?」
「……いいんです。当然の結果と言えるかもしれない。頭の隅にあったのに、気づかないふりをしていた。考えないようにしていた。直視できなかった。竹にスズメとか着たきりスズメとか、思い込みも甚だしい。何の根拠もない、自分に都合がいいだけのばかばかしい考えだったんです」
六時になった。無情にも「比翼連理」は動作を停止し、以後、アクセスできなくなった。
後日、ゴールドフラワーにて、モールコンの振り返りが行われた。メンバーは最初の打ち合わせの時と同様、私と代表、パウダー社長にロゼ、そしてジョー大師の五名だ。
レイダンはモール内を巡回したスタッフの意見や感想をまとめて報告した。これをもとによりよいアプリになることを期待したい。
今回のモールコンではいくつかカップルが誕生した。その後の交際も順調だという。ひょっとすると成婚までそう遠くないのかもしれない。
モールコンは大成功、と言いたいところだが、あの日以降、私の心はすっきりしない。今日の振り返りで、このもやもやを晴らすことはできるだろうか。
「次の議題は、カキ・オオタカさんの件です。モナミさん、報告してください」
「分かりました」
ロゼに促され、私は報告書を読み上げる。
「……私とオオタカくんは大師から与えられたミッションに必死に取り組みました。色んな人と出会い、着実にヒントを集めながら、ツバキ・スズメさんの影を追いました。でも、出会えなかった。彼女が存在するという証拠さえつかめませんでした。大師。あなたはまさかでたらめを言ったのでは……」
私は大師を問い詰める気でいた。さあ、聞かせてもらいましょうか。納得のいく説明を。
「でたらめではない。ツバキ・スズメが誰の端末にも引っかからなかったのは……」
「それは?」
「拙僧が彼女にカキ・オオタカくんのことを伝えると、彼女は『比翼連理』が入った端末の返却を申し出てきたのだ」
「なんですって?」
「拙僧はその申し出を了承した」
「どうして、彼女はそんなことを……」
「その目で彼を見定めたかったのだろう。近くで観察するには、アプリの反応は邪魔になる」
「まさか! 彼女はずっと私たちのそばにいたんですか?」
「ずっとではないと思うが……。彼が自分を探すために、どんな考えをするのか、どんな行動に出るのか、試したくなったのだ。運命の人と言われれば、なおさら」
「では、最終的に彼女が彼の前に姿を現さなかったということは……」
「お眼鏡にかなわなかったか、勇気がでなかったか」
私は全身の力が抜けていくのを感じた。謎は解け、彼女の思いも理解できた。だがオオタカくんのことを思えば心の奥底に悔しさが残る。あんな結末は避けられたのでは。それこそ、大師の干渉がなければ……。
「今回の一件に関しては、私も個人的興味で見逃していた部分があります。ジョー氏を止められなかったこと、深く反省しております。申し訳ありませんでした」
ロゼが謝罪の言葉を口にした。
「カキ・オオタカさんは、その後どうしていますか?」
「退会しました」
「それは残念です。レイダンに残れば、彼女に会えるかもしれないのに」
「『比翼連理』が完成したら改めて彼女を探すそうです」
「そうですか。社長、責任重大ですね」
パウダー社長は頷いた。
「ただ今、弊社に完成を待ち望む声が多く寄せられています。期待に添えるよう全力を挙げて開発を進めています」
「微力ながらお力添えできたこと、光栄に思います」
と、言ったのは代表だ。ゴールドフラワーの二人も笑顔を見せる。
「レイダンさんのご協力には感謝しています」
「テストプレイを行って確信しました。『比翼連理』には運命の相手を見つけ出す力があると。時に居ても立ってもいられなくなるくらいの。大師が口出ししてしまったのも、それだけ二人の相性が素晴らしかったからでしょう」
「その通り。奇跡のような完璧な相性であった」
「完璧な相性……」
私たち結婚相談員は日々完璧な相性探しに明け暮れている。相性のよさはその人の幸せと直結している。どんな人であっても、手を抜いてはいけない。
結婚できた人は、運命の人に出会えたことを奇跡と呼ぶかもしれない。でも私たちには、それが日常でなければいけないのだ。
完璧な相性が奇跡ではいけない。奇跡はありふれたものであり、むしろ量産するつもりでいなければ。




