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4-5

 それから、日々は慌ただしく過ぎていった。連日のように会議はあるし、ゴールドフラワーとも何度も打ち合わせを重ねた。「比翼連理」を完全なものにしようと、私たちは一丸となってモールコンの準備を進めた。


 そして、ようやく会員にイベントの内容を通知できる段階にこぎ着けた。明日から会員に周知し、興味のある人には詳細を説明して、参加者を募る。さて、ジョー大師。あなたの名前でどれだけの人が集まるか、見させてもらいますよ。


 レイダンの事務室には、私以外誰もいない。モールコンの件が一段落したので、相談員もスタッフも午前中で帰ってしまった。だが私には、今日中に済ませておきたいことがある。初めてゴールドフラワーでジョー大師に会った日の帰りに、書店で求めた彼の著書を読破することだ。忙しくて全然読めていなかった。自宅で読もうと思ったが、つい昨日、暖房が壊れたのを思い出して、事務室を使わせてもらうことにした。インスタントコーヒーを淹れ、早速読み始める。本のタイトルは「相性を観ずる~このうえない二人をつなげたい~」。どれどれ……。


 ジョー大師。そこそこ大きなお寺の三男坊として誕生。幼い頃より僧侶になる必要はないと言われてきたが、夢を諦めきれず出家。住職の父の負担を減らそうと、寺の事業の一つである縁組みの仕事を担当する。仲人の仕事をしていくなかで、おごそかな寺の霊気に触れて育ったこともあり、ある時から人と人との相性が「視える」ようになったという。

 その頃から、大師は縁組みの相談に来た人を対象に占いを始める。これが好評で、大師の占いを目当てに寺に訪れる人が増えたという。

 だが家族は、特に兄たちは、占いで有名になっていく大師をよく思わなかった。とうとう、実家である寺から追い出されてしまう。大師もさすがにこの時は憤慨したという。つい衝動的に、家族との縁を断ち切るように僧侶をやめてしまった。ここでは、家族とは相性が合わなかった、と嘆いている。

 ここまでが、ジョー大師が占い師になるまでの経緯らしい。以降は、彼の行う占いについての解説が独自の理論とともに何ページにもわたって書いてある。


 なかなか読み応えがある本だった。大師にもドラマあり。大師は、家族に実家を追い出された際、結婚相談所を開く考えも頭をよぎったという。それでも、占い師の道を進んだ。

 私も大師の能力については完全に信用することはできないが、彼の人々を幸せに導きたいとの思いは本物だと思う。

 それにしても、独特な話し方といい、独自の理論といい……。もしや大師も、チュウニビョウなのではないだろうか……。

 そろそろ帰ろうか、と本を閉じた時、事務室のドアが開いてランが顔を覗かせた。

「あれ? モナミ、何やってるの?」

「ちょっとね、大師のこと知ろうと思って」

 私は大師が書いた本を掲げてランに見せた。

「へー、どうだった?」

「大師の人生、なかなか起伏に富んでいるみたい」

「面白そうね。人のルーツとか、経歴を知るのって、私大好き」

「読み終わったから、貸そうか?」

「ありがとう。モナミって本当に熱心ねえ」

「そういうランは、今まで何してたの?」

 私が尋ねると、ランは鞄から一枚の紙を取り出した。

「ナイオンに行って、これ作ってた」

 それは、ナイオンのフロアマップだった。どこに何の店があるか、どんなジャンルの店なのか、分かりやすく色分けされてある。手書きのメモのようだったが、これをもとに今からパソコンでちゃんとしたものを作成するという。

「すごい、気が利いてる! 確かに、これがあったら便利かも」

 私とランは、モールコン当日、スタッフとしてフロア内を巡回する。そういえば、ナイオンのホームページにはフロアの全体マップは掲載されていなかった。

「ナイオンは、私の庭みたいなものだから」

 ランは得意気に胸を張ってみせた。

 いいなあ。この企画、どんどん改良されていっている。同じ目的を持つ者たちが、よりよいパフォーマンスにしようと適宜修正を加える。

 ふと、懐かしい気持ちにさせられる。今日はこの時期にしては珍しく晴れて、ちょうど窓から夕日が差し込んでいる。学生の頃、こんな風に学友と居残って何かに取り組んでいたっけ。私はあの頃と変わったようで変わっていないのかもしれない。もしかしたら、青春とは何度でも繰り返せるものなのかもしれない。

「モールコン、うまくいくといいわね」

 私とランはそれほど多く言葉を交わしたわけではない。それでもこの時間が愛おしく思えた。よし、頑張ろうと、気持ちを新たにさせるのに、充分すぎるほどの時間だった。


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