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私と代表は机の上に置かれていた書類の束の表紙をめくった。
「まずは、今回のアプリがどういったものか、ご理解いただきたいと思います。我々が開発する今までになかったようなまったく新しいマッチングアプリ、その名も『比翼連理』。コンセプトは『運命の人は偶然隣り合ったあの人かも?』です」
説明によると、このアプリに登録した人は、ジョー大師に占ってもらい、ツリーネーム、バードネーム、そしてパーソナルカラーの三つが与えられる。一人一人を占うのは大変そうだが、この三つは、登録者の誕生月と生まれた日にち、出生名で決まるらしい。ツリーネームは十二種類の樹木の中から、バードネームは三十一種類の鳥の中から名付けられる。パーソナルカラーは緑、青、赤、黄、白の五色あり、複数の色が与えられることもある。
言ってみれば、誕生日占いと姓名判断を合わせたようなものだろうか。
街中で登録者どうしがすれ違うと、アプリが知らせてくれる。相手の名前と色が表示され、さらに、その人との相性を診断してくれる。気に入れば「いいね」を送ることができ、互いが「いいね」を送れば、メッセージのやりとりができるようになる。
「……ここまでで、何かご質問はありますでしょうか?」
ロゼが私たちに問いかける。丁寧な説明のおかげで、どんなアプリかはだいたいつかめた。
だが、少しひっかかる部分がある。私だけだろうか。説明を聞いていて浮かんだ疑問を、この場にいる全員に質してみたくなった。
「はい」
私は挙手した。ロゼは「どうぞ」と促してくれた。
「このアプリ、相手との相性の診断結果が表示される、とのことですが、表示するのは、本当にそんなことでいいのでしょうか?」
「どういう意味ですか?」
ロゼの目が鋭くなって見つめてくる。
「婚活中の人が知りたいのは、占いの結果よりも、もっと現実的な、相手の価値観や好みだと思うんです。それだけを重要視して行動を決める人は、少数派ではないでしょうか」
「占いでは人を動かすことはできない……と?」
「だと思います。占いの結果が良かったからといって、いきなり何も知らない相手との結婚を考えたりするでしょうか? 表示するなら、犬と猫どちらが好きかとか、A国料理が好きだとか……」
「それだと巷にあふれるマッチングアプリと変わらないでしょう」
突然、パウダー社長が声を張り上げて、私とロゼの会話に割って入った。私は驚いて、社長の方に顔を向けた。
「僕たちの目指すのは、唯一無二のアプリなんです。簡単に真似できるようなアプリじゃ、作る必要なんてない」
そう言うと、パウダー社長はばつの悪そうな顔になった。
「……失礼しました。でも、大丈夫です。その指摘には、ちゃんと回答を用意しています。ロゼ、説明を頼む」
「分かりました」
ロゼが頷いた。情熱的なパウダー社長とは対照的に、この人はいたって冷静だ。
「まず私たちは、このアプリは婚活に活用しなくてもいいと思っています」
意外な答えが返ってきて、驚いた。
「ですが、これはマッチングアプリでは……」
「そうなんですが、私たちの願いは、このアプリを使うことによって、今まで見過ごしていた素晴らしい出会いに、多くの人に気づいてほしい、ということなんです」
「素晴らしい出会い?」
「ええ。たとえ話したことがなくても、相性がいいと分かれば、人と人との交流はもっと活発になるはずです。そうしてどんどん新しいモノは生まれていく。なかには、恋愛に発展するケースもあるでしょう。出会う機会を増やしてあげることで、結果的にこの国の結婚数の増加に貢献できれば、マッチングアプリとして成功と言えるのではないでしょうか。つまるところ、私たちは、運命の出会いを演出したいんです」
「どうか、レイダンさんの力を僕たちに貸していただきたいんです。この国の人々を幸せにするために」
「幸せ、ですか……」
二人の思いに、私はすっかり心を打たれていた。ロゼと目が合う。私はロゼを冷静な人だと思っていたが、彼女も社長に負けず劣らず熱い。
「……代表! この話、受けましょう!」
私はなんだか嬉しくて、つい気が逸ってそう言ってしまった。
「まだ説明されてない箇所が残ってるよ」
代表は資料を指して、私をたしなめた。
「『比翼連理』のことはよく分かりました。それで、私たちはどういった協力をすればよいので?」
代表がゴールドフラワーの二人に尋ねる。テストプレイと聞いたが、結婚相談所に何を求めているのか。




