3-4 花のナナハチ組
「どうする? もう少し詳しく調べてみる?」
ランがロベールにこれ以上の調査を望むか聞いた。
「……いや、これだけの情報でも、なんとなく見えてきたよ」
「おおっ、何か分かった?」
私とランの声が揃った。
「三人で調べたことをもとに立てた、確証のない推論だけど……聞くかい?」
「かまわないよ。聞かせて!」
私たちが促すまでもなく、ロベールは聞いてほしくてたまらないというような顔をしている。
「まず前提として、この三人が同じ出来事に感化されて、それぞれの活動を始めたとしよう。おそらくそれは、同い年である、ある女子生徒の十四歳での妊娠だ」
「どうやって知ったの? 三人は出身はバラバラだよ」
「それは分からない。でも噂というものは、インターネットがなくても結構広まるものだよ」
「そうだったかな……」
私は首を捻る。
「とにかく、何らかの形で噂は広まり、彼女たちに強烈な衝撃を与えた。仮に、妊娠した女子生徒をA、させた男子をBとしよう。Bはおそらく、外国人だったんだ。ある時、Aの学校に転入してきて、二人は仲良くなった。でも、仲良くなりすぎた。二人ははやまってしまったんだ。結果、Aは妊娠するわけだけど、それを知らせる前に、Bは自国に帰ってしまった。周囲の人間、例えば両親は、出産に反対した。年齢もそうだし、相手が外国人だから、というのもあったかもしれない。Aは、今度はいつBに会えるのか分からない状況になっていくなかで、Bとのつながりの証であるお腹の子を失いたくなかった。産んでほしいと言われたくて最後の希望であるBになんとか連絡を取ったけれど、Bから返ってきたのは『産むな』という要求だった」
「過酷な状況ね……」
ランが溜め息を漏らす。
「妊娠したのが十代でなければ、親が外国人に理解があれば、正しい知識を備えていれば、二人は結ばれていたかもしれない。AとBの運命は意図せぬ妊娠によって狂わされてしまったわけだ。妊娠というものは、後ろめたいものであってはならない。辛い選択を迫る妊娠は減らさなければならない。これが、彼女たちを突き動かす信念じゃないかな」
ロベールは、ふうと息をついた。
「ちょっと妄想の部分が多かったかな」
「……正解!」
「え?」
「おみごとだよ、ロベール!」
「すごーい!」
「まさか……」
「実は、元同僚から送られてきたメールには、ルポさんと同じような考察をしたことが書いてあるの」
「じゃあ、二人は答えを知ってて僕を試したのかい? いじわるなことするなあ」
ロベールは苦笑する。
「ふふふ、せっかくなら、ロベールの思考力がどれほどのものかをね」
こんなにうまくいくとは思わなかった。ロベールにはいたずらの仕掛けがいがある。
「まんまとしてやられたよ。……で、ルポくんはその後どうしたんだい?」
「考察が正しいか確かめるために、ナナハチ生まれの人とお見合いしたって。メールにはその一部始終も書いてある」
元同僚は、結婚相談所の検索システムを活用して、ナナハチ生まれの女性をリストアップした。ルポさんはその中の一人、カモフラさんに目を留めた。カモフラさんは、ラフランスという劇団に所属する劇団員で、なぜルポさんが興味を持ったかというと、以前にトリュフとこの劇団の俳優が対談するテレビ番組を観たことがあったからだった。彼女なら真相を知っているに違いないと踏んだ元同僚は、間を取り持ち、ルポさんとカモフラさんのお見合いを実現させた。
カモフラさんは、ルポさんの事情を聞いて、婚活を目的としないお見合いの申し出でも受けてくれたという。ルポさんはお見合いの席で、意を決して尋ねた。
「カモフラさん、教えてください。あなたが十四歳の頃に、何があったんですか?」
カモフラさんは勿体つけてから話し始めた。役者だからか、仕草が演技がかっているように見えた、とのこと。
「あなたたちの考察はだいたい合ってるわ。私たちナナハチ生まれが、どうしてその女子生徒の妊娠を知ったのか分からないって言ったわね。それは、ある劇を観たからなの。詳しいことは……百聞は一見にしかず。ちょうど今やってる私たちの舞台を見に来ない?」
そうしてルポさんは、カモフラさんに誘われて、劇団ラフランスの公演を観劇しに行った。元同僚は、二人から離れた席で観たらしい。メールにはその内容が続けて書いてある。
私は、時間がかかりそうだったので、読む前に残りのカフェオレを飲み干した。
「この劇はカモフラさんが十五歳の時にある学校の学園祭で上演されて、好評を博したから劇団ラフランスがその後も上演し続けることにしたそう。今から読むよ。舞台のタイトルは、『恋情、四海を飛び越えて』」




