3-2 花のナナハチ組
「実は、ロベールに聞いてほしい話があるの」
「なんだい?」
「私がいたA国の結婚相談所の元同僚から、メールが送られてきてね。なんでも、変わった人が相談に来たって」
「ほう。どんな?」
「その人は男性で、仮名をルポさんとするね。この人が、なんと自分より十四歳年上の、一九七八年生まれの女性を紹介してほしいと言ったらしいの。元同僚がその理由を尋ねると、学生の頃から、テレビを見ていて好きになった女性芸能人が、皆一九七八年生まれだったって言うの。自分でもどうしてなのか、長年疑問だったって。それで実際に、一九七八年生まれの女性と付き合えば、惹かれる理由が分かるんじゃないかって」
「それで、結婚相談所に来たと」
「ええ。元同僚も迷ったそうよ。理由が理由だから、紹介していいものかと。でも興味は湧いたらしくて、一緒に考えることにしたって。そこで、ロベールの知恵を借りたいの。どうして彼が、ナナハチ生まれの人に惹かれるのか」
「うーん……」
ロベールは腕組みした。
「どう? 面白そうな話でしょ?」
「そのルポくんのことを、もう少し詳しく知りたいな」
「ちょっと待ってね……」
私はスマホを取り出し、送られてきたメールを開く。元同僚がルポさんをヒアリングした内容が書いてあったはずだ。
「ルポさんは高校を出たあと今の会社に就職。十年以上勤めてきたけど、大きな失敗もないが大きな飛躍もない。そんな万年平社員みたいな人生に焦りを覚えて結婚を意識したそうよ。生きがいというか、生きる目的が欲しいって」
「結婚して家庭を持ったら、何か変わるんじゃないかと思ったわけだね」
「そうみたいだね」
「だとすれば、結婚相手は結構な高齢出産だ。それとも、連れ子を希望とか?」
「ええと、ナナハチ生まれの人と結婚したい、というわけではないみたい」
「ん? どういうことだい?」
「ルポさんは、昔はその芸能人しか見ていなかったようだけど、今では同年代の子にも惹かれるようになってきてるって。結婚相手の年齢もそう。だから、本格的に婚活を始める前に、この疑問をはっきりさせておきたいんだって」
「なるほどねえ……」
ロベールはじっと考え込む。この件について真剣になってくれているらしい。なんだか、こんなふうに思索にふけるカフェの店主というのを、ロベールがやると絵になるなと思った。
「彼が好きになった女性芸能人、誰だか分かるかい?」
ロベールの質問に私は頷く。メールには三人の名前が書かれていた。
「一人目はジャンヌ。元スポーツ選手」
「この人ね」
ランが検索して、ジャンヌの顔が写った画像をロベールに見せた。
「二人目は?」
「二人目はルパン。元アナウンサー」
「こんな感じの人」
ランはルパンが開設したウェブサイトを開いてロベールに見せた。
「最後の三人目は?」
「三人目はトリュフ。歌手」
「ああ、僕も名前は聞いたことがあるよ」
ランはトリュフの現在の姿を写した画像を見せた。
「三人とも美人だね。ルポくんじゃなくても好きになるよ」
ロベールがそんな感想を漏らす。
「でも、芸能人の見た目って変化が激しいからね。この三人もルポさんが好きになった当時とは、髪型も違うらしいし」
「じゃあ、今はもう好きじゃないのかい?」
「そんなことはないと思うけど。たまに検索してみるくらい、とは言ってるけどね」
「三人がナナハチ生まれなのは単なる偶然なのか……でも、共通点はそれくらいしかないか。出身も活躍しているジャンルもバラバラだし」
「見た目がそんな重要じゃないなら……内面?」
ふいにランが発言する。私は頷いた。
「内面とか、雰囲気、人柄……そういうのって、どうやって作られると思う?」
「そうだね……。どんな家庭で育ったか、どんな選択をしてきたか……それこそ千差万別だね。それでも人間が似通ってくるってことは、その人たちは同じものに影響されたとか、何か共通の経験をしたとか」
「何かあったっけ。一九七八年に……」
同じA国出身である私とロベールは、思考を巡らせる。しかし、これだというものが思い浮かばなかった。
「生まれた年よりも、育った年に焦点を当てた方がいいかな。彼女たちが多感な頃に、何を経験したか」
「なるほど……」
今度は、彼女たちの青春時代に思いを馳せてみる。しかし、まだ漠然としすぎている。さしものロベールも何も思いつかないようだ。




