3-1 花のナナハチ組
日に日に季節は進み、特に朝晩はぐっと冷え込むようになった。寝る時は毛布を出したお陰で冷えをしのげているが、また新たな問題が発生する。朝起きる時、ぬくすぎてなかなか布団から出られないのだ。これからはこの誘惑との闘いが本格化する。一度油断すると致命的に寝過ごしてしまう可能性があるので、特に注意が必要だ。
そんな冷えに弱い私が最近、毛布と同じくらいお世話になっているものがある。ロベールの経営するカフェ「コロンボ」だ。
ただ温かい飲み物を飲むためだけならば他にも店はたくさんある。私がコロンボに通う理由は、何よりもA国に帰国したような安心感が得られるからだ。店の内装や雰囲気はA国ではざらにありそうなものなのに、異国の地にあるとこうも安らげる場所になるとは不思議だ。
B国に来て約三ヶ月。私はこの国の様式にだんだん順応していくのかと思いきや、時々無性になんとも思っていなかったA国が懐かしく、恋しくなる時がある。そんな時はここでの充電が欠かせなくなってきている。この国での派遣期間はまだまだあるというのに、こんなことではいけないと思いつつ、また今日もコロンボに足が向いてしまうのだった。
今日は、ランを誘ってコロンボを訪ねた。
「こんにちはー」
ドアを開けると、からんころんとドアベルの音が鳴った。店内に入ると、私たちの目に驚きの光景が飛び込んできた。
あのロベールが客の対応をしている。
まさかこの客、裏メニューを注文したのか。その客は会計を済ませると店から出て行った。
「珍しいね。ロベールが店に立ってるなんて」
「バイトの子が辞めちゃってね。もう裏メニューごっこはできないな」
辞めたんだ。というか、あれは遊びだったんかい。
「私はお客さんが来てたことにビックリよ。バイトを雇えてたのが不思議なくらい、人来てなかったのに」
ラン、驚くのそこか。まあ、無理もない。ランは私ほどこの店に通っていないから、誰も来ていないように見えてしまうのだ。
「ひどいなあ。これでも、熱心なリピーターがいるんだよ」
ロベールがちらりと私の方を見やる。
あ、やったな。まるで私が変な人みたいじゃない。じゃあ、こっちも。
「ほら店員さん、早く席に案内して。オーダーも取って」
私のカウンター。これはロベールにも効いたらしい。
「おいおい、いやあながち間違っちゃないけどね、仮にも僕はここの経営者で……」
私たちは店員呼ばわりに抗議するロベールを差し置いて、さっさとカウンター席に座った。
「やれやれ」
ロベールはレジの前で大袈裟に肩をすくめてから、私たちの目の前まで移動した。
「それで? 今日は何にしますか? お客さん」
私はカフェオレ、ランはタマゴサンドを頼んだ。ロベールは調理するため、店の奥に引っ込む。
ロベールがいなくなると、私たちの他に客がいないことに気づいた。貸し切り状態だ。
「静かねー」
ランが呟く。時折カタカタと何かが触れ合う音が奥から漏れてくる。それを聴きながら出来上がりを待った。
「はいはい、お待ちお待ち」
数分後、ロベールが頼んだものを運んできて、私たちの目の前に置いた。
「いただきまーす」
ランはタマゴサンドにかぶりつき、私は出来立てのカフェオレに口をつけた。
「おいしい」
「ありがとう。で、今日は二人でどうしたんだい?」
私とランは顔を見合わせた。




