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2-18 婿に来ないか

 そして、その報告を受ける日がやって来た。来所したミサさんとケンジさんをいつものように相談室に通し、向かい合わせに座った。さっそく面談を始める。

「剣道の大会でのデートはどうでしたか?」

「実は、大会中にプロポーズ……を、されたんだけど、断っちゃった」

「えっ、どうして?」

「……ちょっと長くなるけど、いいですか」

「ええ。聞かせてください」

 どういう流れでそうなったのか、どうして断ったのか。気になった。

「あの日、何があったかっていうと……」

 ミサさんは試合会場で起こったこと、それを見て感じたことを話し始めた。


 私が会場に着くと、コウスケさんが入り口で待っていてくれました。私は、正体がばれるリスクを考えて、変装のつもりで眼鏡をかけていきました。でも、コウスケさんは一発で見抜いたみたいで、効果はあったのか疑問です。

 会場の中に入ると、自分が剣道をやっていた頃の記憶が一気に呼び起こされました。この匂い、この熱気。そういえば、大会ってこんな感じだったって。会場に充満するそれらを感じると懐かしくなりました。同時に、辛かった練習を思い出して、胸が苦しくなりました。ここへ来るべきじゃなかったかも、という思いもよぎりました。

 会場には四つのコートがあって、団体戦が行われていました。B高校の一回戦は、Aコート。私とコウスケさんは壁際を進んで、チームのみんなと合流しました。そこには、唯一の女子部員のカガさんの姿もありました。彼女は試合には出ないけど、こうして男子の応援をするために駆けつけてきたみたいです。

 まもなく試合が始まりました。オーダーは、先鋒、キヅくん。次鋒、エジマくん。中堅、ナカタくん。副将、ハジロくん。大将、ミナミくん。カガさんが、五人の背中に白色のタスキをつけていました。

 まずは先鋒どうしの試合です。キヅくんの相手は背が高くて、威圧感がありました。そこで、コウスケさんに尋ねました。

「キヅくんって、強いんですか?」

「比較的練習には参加していましたから、やってくれるでしょう。相手との実力差もそんなにないはずです」

 コウスケさんの期待に応えるように、キヅくんは機敏に動き、見事相手より早く二本先取しました。私とカガさんは手を取り合って喜びました。

 続いて、次鋒どうしの対戦。エジマくんの動きにはなんだかキレがなく、開始数十秒であっけなく面を取られてしまいました。

「稽古不足だ」

 コウスケさんから辛辣な一言が漏れました。

 さらにもう一本取られ、この相手には瞬殺でした。これで両チームは同点に。

 次に控えていたナカタくんは、負けてコートを出るエジマくんと入れ替わる時に、小手で胴をぽんぽんとタッチしていました。取り返してやる、実際に言ったかは分からないけれど、そう聞こえました。

 ナカタくんは相手に攻められてもどっしりとして動じず、粘り腰で応じていくなかで一本をもぎ取り、それを時間切れまで死守して勝利しました。相手に一本も与えなかったことはコウスケさんも褒めていました。

 続いて、副将戦。ハジロくんは開始直後に相手に鋭い面を打たれ、危うく一本になるところでした。鍔迫り合いに持ち込み、勝てなくてもせめて引き分けにしてくれ、チームの誰もがそう願っていたように思います。でも、願いむなしくハジロくんも二本負けになってしまいました。中学で剣道をやめた私は、突きで一本が決まるのを初めて目の当たりにしました。

「きれいに決められたな」

 力無く戻ってくるハジロくんに、ミナミくんはそう声をかけました。負けを責めようという考えはないようでした。

 現在、二対二。でも得本数では相手が勝っています。勝負を決する、重要な大将戦。ミナミくんからは、並々ならぬ気迫が伝わってきました。

 私は、ミナミくんに相対した相手チームの大将の反応を見るのが楽しみでした。なぜかっていうと……。

「始め!」

 審判の合図とともに、ミナミくんは立ち上がると、竹刀を頭上へ掲げました。

 上段の構え。

 コウスケさんとの稽古で、他の四人は中段の構えなのに、一人だけ違う構えでいたのが印象的でした。

 気のせいか、今相手の肩に力が入ったように見えました。私たちは、固唾を飲んでこの勝負の行方を見守っていました。

 いけ。そこだ。打て。いけ。

 どうか勝ってほしい。努力が報われてほしい。気づけば私は、懸命に祈っていました。こんなに肩入れするなんて、自分でも驚きでした。

「勝負あり」

 試合の結果は、ミナミくんの二本勝ち。ミナミくんはその覇気で、相手に一本も取らせませんでした。私たちは見事、一回戦を突破したんです。

「よしよし。よくやった」

 コウスケさんも喜びはひとしおで、盛んに手を叩いていました。

 二回戦に進んで当たったのは名のある強豪校で、このチームにはまるで技が通用しませんでした。練習量の豊富さを思わせる圧倒的な強さを見せつけられ、こちらのチームは大敗。みんなさぞかし落ち込んでいるだろうなと思ったら、意外にも全員あっけらかんとした様子でした。相手が強すぎるから、負けても清々しいのかもしれません。

 試合が終わっても、閉会式まではいなくちゃいけないので、私たちは会場の二階に移動しました。二階は観覧席になっていて、各学校の選手が荷物を置いていました。みんなは、手すりにもたれて他の学校の試合を観戦していました。

「ミサさん、今日は応援ありがとうございました」

 観覧席の後ろの方で、私とコウスケさんは隣り合わせに座っていました。

「いえ……私なんて、見ていただけです」

「ミサさんの存在は大きいですよ。ミサさんはアイドルになれるくらい魅力的な人だから、表情ひとつにも力があるんです。笑うだけで場が華やぐみたいな。一喜一憂を共有したくなる、不思議な魅力を持っています」

 この時の私は、口を挟まずただ黙って聞いていました。

「今日は一度だけでも勝つことができてよかったです。ミサさんの嬉しそうな顔を見られましたから。今日の結果は、いつかは埋もれてしまうようなささやかなものかもしれません。でも意味はあったと思います。僕の見ている世界は、アイドルの世界みたいに華があるわけではありませんが、でも時々、とても眩しく見える時があるんです。その景色を知ってほしかった」

 コウスケさんは目を細めて部のみんなを見つめていました。みんなは私たちに気を遣っているのか、あえてこちらを見ないようにしているようでした。

「これから先も、僕と一緒にその景色を見てくれませんか」

 コウスケさんの真剣な気持ちが伝わってきました。さすがの私も、これはプロポーズなのだと気づきました。でも、私は……。

「ごめんなさい。まだ決められないです」

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