2-17 婿に来ないか
「えーと、みんなは中学のときから剣道やってるの?」
ミサさんはファンと交流するかのように部員たちに質問した。
「はい、おれたち、全員が違う中学で、しかもみんな部長だったんです。ここまで集まっているのって、すごくないですか」
細面のハジロくんが得意気に答えた。
「でも、今日来てよかったー。まさかジャガーファイブのミサに会えるなんて」
面を取って眼鏡をかけたエジマくんがガッツポーズして喜びを表現した。
「まったく、普段なかなか揃わないくせに、こういうときだけ顔を出すもんな」
コウスケさんがやれやれと肩をすくめる。
「記念にサインもらっとく?」
同じく眼鏡をかけたナカタくんが提案する。
「あっ、いいね。ラーメン屋みたいに飾ろうぜ」
キヅくんが話に乗る。
「サインって、色紙なんてねーだろ」
ミナミくんはあきれていたが、表情は笑っていた。
「ミサさん、サインっていいですか?」
「うん、いいよ」
「ありがとうございます! ちょっと職員室に色紙がないか聞いてきます」
キヅくんは丁寧に礼を言って、駆けだしていった。
「あー行っちゃった。私、もうアイドルじゃなかったんだった」
「いいですよ。むしろレアです」
ハジロくんが控えめな声量で言った。アイドルを前にして少なからず緊張しているようだった。
「そうかなあ」
ミサさんが笑うと、ハジロくんも安心したように笑った。
「あっ、やべ。おれもうバスの時間だわ」
ナカタくんが時計を見て焦りだした。彼にとってバスに乗り遅れることは重大な事態らしく、ミサさんに尋ねる。
「あのー、着替えてもいいですか?」
「あっ、ごめん。私がいると着替えにくいよね。じゃあ、そろそろ帰ろうかな」
「そこまで送りますよ」
ミサさんとコウスケさん、そして私は、剣道場を出て校門へ向かった。
校門でケンジさんを待っていると、キヅくんが息を切らして走ってきた。
「ミサさん、サインまだもらってないです」
「そうだった。なんですぐ忘れちゃうんだろ」
ミサさんは渡された色紙にささっとサインを書いてあげた。
「ありがとうございます。一番目立つところに飾ります」
キヅくんは満面に笑みをたたえて色紙を受け取った。
そんなキヅくんを見て、コウスケさんは何か思いついたようだった。
「ミサさん、よかったら今度の大会見に来てくれませんか」
「えっ、私ですか?」
「はい。ミサさんがいたら、みんないつも以上の力を発揮できると思うんです」
「コウスケさん、それいいですね。おれたち、本当に出席率悪いんですよ。ミサさん会いたさに今度こそ全員揃うかもしれない」
キヅくんが激しく首を振って同意する。
「先生、どうしよう?」
ミサさんは私の方を向いて意見を求めた。
「特に嫌じゃなければ、行ってみたらどう? きっと彼らには、ミサさんが必要なんですよ」
「……うん、じゃあ、行きます」
キヅくんが目を輝かせた。コウスケさんも安堵の表情を浮かべる。行動一つでここまで人を喜ばせるアイドルの力ってすごいんだな。
感慨にふけっていると、ケンジさんの車が到着した。
「やあ、皆さんお疲れさまです。あっ、あなたがコウスケさん? 娘がお世話になりました」
ミサさんとコウスケさんは連絡先を交換して別れた。
帰りの車中、助手席に座るミサさんは決然として後ろの私に告げた。
「先生。私、大会には一人で行こうと思うんです」
ミサさんは決して私を邪魔者扱いしたのではないと思う。
「うん、それがいいかもしれませんね。では後日、良い報告を待ってます」
これっきりミサさんは黙ってしまった。車内では行きと同じように私の知らない曲が流れていた。ミサさんが今どのような思いでいるのか、後頭部からは何も分からなかった。




