2-12 婿に来ないか
「ミサちゃん、こっちこっち」
校庭に飛び出したものの、どこへ行けばいいのか迷っていたミサさんを、タカオさんが一番ホールポストへと案内する。いよいよ二人の初顔合わせだ。私も見届けるべく二人の後を追う。
グラウンドゴルフ大会は班対抗で行われる。ホールポストの数に合わせて八つのチームが作られ、順番に全てのホールポストを回る。コースはどのホールポストからでも始められるので、ゲーム開始とともに校庭のあちこちでボールを打つ快音が鳴り響いた。団体の部と個人の部があり、町民はスコアを競い合う。
ミサさんとタカオさんは家が離れているので本来別のチームになるのだが、町内会長であるケンジさんの権限で同じチームにしてもらった。ミサさんが大会に参加した理由がタカオさんとのデートのためであることは、町民には隠している。これはミサさんの希望したことだった。関係を深めるためのデートでもあまり親密に見えすぎてもいけない。タカオさんにはミサさんの都合ばかり優先させて申し訳ないが、今回の難しいデートを了承してもらえた。これは、ケンジさんが直々に頼みに行ったことも大きいだろう。
ミサさんが参加する大会に結婚相談員が居合わせることをどうごまかすか思案していたが、先程のランの嘘は私たちの本当の目的を隠すのに効果的だった。
当初は私たちの身分を明かさない方がいいという案があったくらいで、結婚相談員というだけで邪険にされないか心配になったが、それは思い過ごしで、大会が始まってみればどの人も友好的に接してくれている。
雲一つない秋晴れの空の下、ここ一番ホールポストでは、初心者のミサさんがタカオさんの手ほどきを受けている。
まずタカオさんが先にホールポスト目がけて一打目を打つ。ボールは少し手前で止まった。ボールをホールポストの輪の中で静止させればホールインとなる。一打で決まればホールインワンだ。タカオさんは「さすがにホールインワンとはいかないね」と地面に印を付けてボールを取り除く。これは、他のプレイヤーのボールが当たってしまうのを防ぐための行動だ。
一連の流れを見せられて、ミサさんも見よう見まねでやってみる。打つ角度が悪かったのか、ボールは大きく逸れていった。
「あー惜しい」
「初めてにしてはいい線いってるよ」
「上出来、上出来」
タカオさんがすかさず褒めて、チームのメンバーからも声援が飛ぶ。今のところ間が持たないことはなさそうだ。
再びタカオさんの番が回ってきた。タカオさんは見事、二打でホールインさせた。これは、格好良い所を見せられたのではないか。サッカーや野球と比べて、いまひとつ魅力に欠けるのが悲しいところだ。
ミサさんのボールは着実に近づいていったが、あと少しのところで入らない。最後はホールポストにものすごく接近して打つことになった。打数はかかったが、無事ホールインさせることに成功した。ボールはホールポストの中心にある鈴に当たり、チンという音が鳴った。
「あっ、この音気持ちいい」
ミサさんが思わず感想を漏らすと、タカオさんも大きく頷いた。
「それは僕も思いました。初めてやった時に」
小さなことがきっかけとなって、二人は笑い合う。二人の仲は順調に深まっていると思えた。
続いて、二番ホールポスト。このホールポストはグラウンドの端にあり、横側のフェンスを越えた先は道路だ。地面には雑草が目立つ。
「ここはさっきよりも難易度は高いけど、頑張ろう!」
タカオさんは人を鼓舞するのがうまい。このあたりは、さすが先生をやっているだけのことはある。
ミサさんの打つ番になった。雑草があるから進みにくい、という指摘を受けて、豪快に振りかぶって、打った。すると、ボールはあらぬ方向へと転がり、グラウンドの側溝に落ちていった。
「ああっ。これってどうするの」
「大丈夫。ボールを拾って、地面に置き直せばいいから」
このようにボールが穴にはまって打てない場合は、プレー可能な箇所にボールを持って行き次の打を行う。その際、スコアに一打追加する。
グラウンドゴルフは打数を競うスポーツだ。打数が多くなると優勝は遠ざかる。ミサさんは初参加でまさか優勝は狙っていないだろうが、私は気になってチームの記録係の人にミサさんのスコアを聞いてみた。
「ミサさん、どんなものです?」
「まずいねえ。このままだと最下位まっしぐらだよ」
案の定、成績はよろしくない。でも今回は勝つことが目的ではないので、私はそんなに気にしていなかった。
私の成績はというと、可もなく不可もなし、といった感じだった。私にはボールの行方より二人の関係の方が気がかりだった。
全八つのホールポストを回り終えたチームから、休憩時間になった。参加者全員にクーラーボックスの飲み物が配られる。町民は開始前と同じく、日差しを避けて校舎の陰に集まっていた。




