2-10 婿に来ないか
よく晴れた日曜日の朝。私はランの運転する車で市内のとある小学校に向かっていた。その小学校の校庭でケンジさんの町内会が開くグラウンドゴルフ大会に参加するためだ。なぜそうなったかというと、話は前回のミサさんとの面談にさかのぼる。
ミサさんのレイダン入会を了承した私は、早速チェックシートを書いてもらい、希望の相手がどれくらいいるか検索をかけてみた。ミサさんの指定した条件で出てきたのは、なんと一人だけ。これは条件を考え直してもらう必要があるなと思いつつ、その結果をミサさんとケンジさんに見せた。
「おや、こいつは……知った顔だ」
「お知り合いですか」
名前は伏せられているが、顔写真を見てケンジさんは確信した様子で答えた。
「うちの町内のやつですよ。そういえば、結婚相談所に行ったと聞いたな」
私は内心で驚いていた。検索で出てきたのは、あのタカオさんだったのだ。ここでもつながっている。
「この方にお見合いを申し込んでみますか? 別の方がいいなら、条件の範囲を広げなくてはいけませんが」
ミサさんはしばらく考え込んだあと、きっぱりと自分の意思を告げた。
「私はこの人のことは知らないけど、今のところ理想に一番近い人がこの人なら、会ってみたい」
「ん? 知らないか? 顔を合わせたことないか?」
ケンジさんが尋ねる。
「ないと思う。年も離れてるし」
ミサさんは二十四歳。タカオさんは三十歳だ。
「でも、こいつならわざわざお見合いを組んでもらわなくても、すぐ会えるぞ。ちょうど週末に町内のグラウンドゴルフ大会がある。いい機会だし、お前も参加してみないか」
またまた、話が私の予想もつかない方へ転がっていこうとする。
「それだと、お見合いをしないでいきなりデートということになってしまいます」
ミサさんがデートという言葉にぴくっと反応する。
「デートってほどのものでもないでしょう。でも、彼との関係を深めるには絶好の場だと思います」
ケンジさんは笑って話す。確かに、グラウンドゴルフに恋人どうしがやるようなイメージはない。ミサさんは黙り込んだままだ。大会に参加するか相当迷っているようだ。
「町内のみんなと顔を合わすのは……気まずいな」
「みんな、お前の元気な姿が見たいんだぞ」
ミサさんは唸りだす。二人のやりとりを見ていて、このままミサさんが参加を表明したら、もしかしたら私の出番はないのかもしれない。
「グラウンドゴルフですか。楽しそうですね。きっとみんな、ミサさんを温かく迎え入れてくれますよ」
「よかったら、モナミさんも参加しませんか」
「えっ」
ケンジさんからの突然の提案にびっくりした。
「私は町内の人間じゃありませんが……」
「いいですよ。何しろ年々参加者が減る一方で。町内会長権限で何とかします。モナミさんがついていてくれれば、この子も心強いと思います」
ケンジさんがミサさんを見やる。すると、ミサさんが口を開いた。
「私、正直デートに自信がないんだ。横で仲を取り持ってくれたら、助かる」
ミサさんは手を合わせて私を見る。どうやら参加を決めたようだ。婚活の通常の手順を踏まないことに抵抗はある。でも、ほうっておいたらミサさんは無防備な状態で進んでしまう。そんな彼女を、黙って見過ごすことなんて、できない。
私は参加すべきか、否か。答えは決まった。
「分かりました。私でよければ、力になります」
「よかったあ」
二人が顔を見合わせて安堵する。この場が一気に和んだ。
「どうせやるなら、悔いの残らないデートにしましょう。私からアドバイスさせてください」
「アドバイス?」
「余計なお節介かもしれませんが、ただグラウンドゴルフをするだけではいけないと思ったので。デート中の課題みたいなものです」
「聞きたい! デートって何すればいいの?」
「まず、デート中は自分の心の変化に敏感になってください。デートが始まったら、二人の共通点を探すんです。趣味や価値観など、小さなことでもいいから、意識を集中させてみてください」
「ふんふん。あっ、メモしていい?」
私は紙とペンを渡す。
「そしたら、この人の隣にいることが心地良い、苦にならないと感じられるか、心に聞いてみてください。今自分が笑顔になっているかどうかも、判断の基準になります」
「笑顔……。心から楽しいって思えるかが重要ってこと?」
「はい。最後に、この人になら家族にも打ち明けられないような自分の秘密を話せるか、考えてみるんです。二人の障害となるようなことを話しても、きっとこの人は離れていかないと自信が持てたら、もうその人は、結婚相手として意識してもいいと思います」
「はあー……」
ミサさんは感心しきりといった様子で私を見つめている。
「……先生!」
「え?」
「すごい! 何でそんなこと分かるの。恋愛マスターって感じ。もう先生って呼んじゃう!」
「そ、そうかな」
実は以前読んだ本のほぼ受け売りなのだが、私が感銘を受けた部分がミサさんの心にも響いてよかった。
それにしても、懐かしい。キャリアカウンセラーだった時も、先生と呼ばれていた。
「とにかく、タカオさんとのデート、頑張りましょう!」
「うん! うまくいくかどうかだけど、やってみる!」
この面談で、ミサさんと私の結束がより強固なものになった。
小学校へとひた走る車の中で、私はランの意見を聞いた。
「ランはどう思う? ミサさんの利用の仕方」
「うーん、いいんじゃない? デートくらい」
やっぱり、珍しいことじゃないんだ。私はA国の常識に凝り固まっていた。
「それにしても、ごめんね。ランまで巻き込んじゃって」
実は、ランもグラウンドゴルフ大会に参加することになったのだ。
「いいのよ。でも、すごーい! モナミには、面白い人が集まってくるのね!」
「笑い事じゃないよー、もう!」
今回もグラウンドゴルフ大会に参加するという予想だにしない展開となった。どんな突拍子もない展開でもすんなり受け入れてしまっている自分に驚いている。
ランとの待ち合わせの場所だったレイダンを出発してから十分ほどで、小学校に着いた。




