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2-9 婿に来ないか

「ミサさん。どうしてそこまで結婚相談所を忌避するんですか?」

 直球を投げてみた。

「だって……結婚相談所って、周りに選んでくれる人が誰もいない、魅力のない人が行くイメージがあるし……」

「自分はもてない人だと思われるのが嫌?」

「うん……」

 ミサさんは結婚相談所を利用することは自分にとって拭えない汚点になると考えているようだ。アイドルをやっていた彼女は、人目を特に気にするのだろう。だがその考え方は偏見だ。結婚相談所は、決してもてない人たちが集まる場所ではない。どうすれば信じてもらえるだろうか。レイダンの今後のためにも、まずは目の前のミサさんの偏見をなくすことに、地道に取り組んでいかなければ。

「結婚相談所に来ることは恥ずかしいことじゃありませんよ! ここに来る人は真剣に婚活に取り組もうとする素敵な方ばかりです。本気で結婚したいなら、結婚相談所。この国でもそれが当たり前になればいいと私は思います」

「でも、やっぱり今まで生きてきてチャンスはなかったの、って思う。学校とか、職場とかで」

「人間は常に恋のことを考えて生きているわけではないでしょう。好意に気づかなかったり、忙しくて気が回らなかったり、複雑な事情から恋を諦めていたり。婚活を思い立った時に改めて自分を見つめ直してみると、あの時のいたらなさに気づくんです。結婚相談所には、そんな人を全力でサポートする頼れる結婚相談員がいます。二人三脚で、時につまずいて転んだとしても、確実に幸せに向かって進んでいく。私はそんな相談員を目指してます」

「すごい覚悟。まあ、そんな人がいてくれたら確かに心強いだろうけど」

「ですよね。婚活はひとりでするわけじゃありません」

「相談員がいるから、恋愛に自信が湧く?」

「そうです。利用する前と比べて、みなさんすごく生き生きとされてます。人の気持ちが分かるようになったとか、今まで気づかなかった魅力に気づけたとか」

 私はここぞとばかりに力説する。果たしてミサさんの反応は、どうか。

「……なんか考え変わったかも」

「分かっていただけましたか!」

「うん。結婚相談所に来る人の意識が高いのは伝わった」

 ほっと胸を撫で下ろす。ミサさんからは先程までの敵意のようなものは消えている。

「私、入会しようかな。そういう人たちに会ってみたい」

「えっ」

 ミサさんの言葉で、私のしたことは勧誘になっていたかもしれないと気づく。

「ええと……正直、あまりお勧めできません。ミサさんは今の生活を立て直すことが先決かと思います」

「分かった。今日から不規則な生活はやめる。だから入会させて」

 こういう状況になるとは思ってもみなかったので、困惑する。婚活することは本当に彼女の道を拓くことになるのか。ミサさんは続けて言う。

「それに、アイドルが利用したって宣伝すれば、この相談所にとってもプラスになるんじゃない?」

「うーん、確かに……」

 今でもアイドル扱いされるのは嫌がっていたのに。でも確かに、おいしい話かもしれない。

「ねえ、詳しく聞かせて。婚活って何するの」

 私はよくない気がしていても、ミサさんに入会手続きや具体的な婚活の流れについて説明した。ミサさんは特にレイダンの検索システムに興味を持ったようだった。

「ふーん。条件を指定してしぼり込めるんだ」

「ええ。希望の相手がいるか事前に調べることができます」

「すごくない? もっと早く知っていればよかった」

 ミサさんははしゃいで、隣のケンジさんの肩をばしばし叩く。

「ミサさん。軽い気持ちなら、やめておいた方が……」

「全然軽い気持ちじゃないよ。ここに登録してる人ってちゃんと身分が証明された人なんでしょ。街で怪しく言い寄ってくるみたいなやつはいなさそうだし、安全な恋愛ができるかなって」

「婚活じゃなくて、恋愛がしたいの?」

「ほら、私って、ずっと恋愛禁止だったから。ここなら、理想の条件の恋人とすぐに出会えそうだし。全部お膳立てしてくれるなんて、最高じゃん」

「その利用の仕方は、どうなんだろう?」

「いいじゃん。普通の恋愛をしてみたいの。ああー、憧れるなあ。普通の青春」

 うーむ、結婚相談所にそんな使い方があるのか。

 検索システムで見つけた相手は自分にとって理想の条件を備えている。街に出て理想の恋人を探すよりも安全で、効率的だ。ミサさんはそんな相手との恋愛を楽しみたいと言う。でもそれは真剣に婚活に取り組む会員にとって、冷やかしと映るのではないか。ミサさんは人気アイドルだったのだ。人の心をかき乱すだけかき乱して去っていく、危険人物にならないだろうか。ミサさんを入会させるのはリスクが高い。レイダンの平穏のためにもお引き取り願った方が……。

 一方で私の頭の中では「この好機を逃してはなるまい」という声が強く鳴り続けていた。元アイドルの人気と知名度を宣伝に利用できれば、より多くの人にレイダンのことを知ってもらえるに違いない。これが今のレイダンに必要な、打開策なのかもしれない。

「……分かりました。入会を認めます」

「ほんとに? やったー!」

 手放しで喜ぶミサさんとは対照的に私は笑顔がひきつる。今回のケースも、波乱が待ち構えていそうだった。

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