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2-7 婿に来ないか

「おーい、モナミ。そろそろ時間じゃないかい」

 すっかり手紙に没入していた私は、代表の呼び声ではっと我に返った。

 そうなのだ。今日はこれから、予約した人と会うことになっている。

「ご指名とはね。モナミもだいぶ有名になってきたじゃないか」

「まさかそんな……。私が来てから、まだ一ヶ月ですよ」

 今日面談予定の方は、わざわざ私を名指しして予約を入れたらしい。どこでどのようにして私のことを知ったのだろう。クレームを言いに来たあの男性のように強い口調ではなかったらしいので、身構える必要はないと思うが、少し緊張する。

 エントランスから誰かが入ってきた。おそらくこの人に違いない。私は出迎えるため、事務室を出た。その人と私は目が合うと、お互いのことを確かめ合った。

「あっ、どうも。あなたがモナミさんですか」

「はい。お待ちしておりました。予約されたケンジさま、ですね」

「そうです」

「では、相談室にご案内いたします」

 ケンジさんは中年の男性で、男性にしては身長がちょっと低め。一見すでに結婚しているように見えたが、どんなことを相談しに来たのだろう。

 私たちは相談室に入り、机を挟んで向かい合わせに座った。ケンジさんは予約の電話では詳しい事情は会ってから、と話したらしい。電話では言えない、切実な悩みがあるのだろうか。

「ご結婚されたい、ということでよろしいでしょうか」

「いや、私でなくてね」

 ケンジさんははっきりと否定した。

「私の娘なんですがね」

「娘さん?」

 やはり、ケンジさんはすでに結婚していて、子供もいるようだ。ケンジさんはレイダンへ訪れた理由を説明し始めた。

「私の娘、ミサと言いますが、ずっと続けていた仕事を失って、現在はうちに帰って来ているんですが、何か新しい仕事を始めるでもなく一日中布団の上で過ごしていまして。見かねて私はひきこもりサポートステーションという所に相談に行ったんですよ。そこである親御さんと出会って、モナミさんの評判を聞いたわけです」

「私の評判?」

「その親御さんが言うにはね、ずっと家にいた息子がモナミさんのおかげで再び大学に通うようになったと」

 ひょっとして。ついさっき読んだ手紙が、頭をよぎった。

「その息子さんの名前って分かりますか?」

「ええと、ノルブくん、だったかな」

 私の中に小さな衝撃が広がった。つながっている。私はランの言葉を思い出した。思いもよらぬところで人は出会っている。

「ちょっと待ってください。ということは、結婚の相談ではない?」

 もしかして、娘の仕事の相談だから、断られるかもしれないと思って、電話では相談内容を明かさなかったのか。

「いや、私はモナミさんが結婚相談員と聞いて、これはちょうどいいと思いまして」

「ちょうどいい?」

「娘も適齢期です。仕事が見つからないのなら、家庭に入ったらどうかと」

「主婦になれということですか?」

「ええ。いずれ蓄えも尽きるだろうし」

「うーん……でも、やはり仕事がないから結婚するというのは、少々飛躍のしすぎではないかと……」

「いやいや、昔はね、結婚しなきゃ生きていけなかったんですよ」

 ケンジさんのその言葉が心に引っかかる。結婚というものは、まずは生活の基盤が整ってから考えるものだと思っていたが、ケンジさんの考え方はまるで逆だ。

 しかし、娘を思う気持ちは分かるが、大事なことをなおざりにしている。当の本人はどう思っているのだろう。

「ケンジさん、今日はお一人で来所されましたよね。結婚相談所へ親御さんと来られる方もいますが、登録は、本人の明確な意思がないとできないことになっているんです。まずは娘さんとよく話し合われてみてください」

 ケンジさんは困り顔で腕組みした。

「うーむ……どうやってあいつを連れ出すか……」

 ケンジさんはどうあっても娘を結婚させたいようだ。私は説得を試みる。

「娘さんのことは、やはり結婚相談所ではなく、サポートステーションに行かれるのが良いかと。それが娘さんのためだと思います」

「でも、モナミさん前職はキャリアカウンセラーだったんでしょ? ぜひ相談に乗ってくれるとありがたいんですが……」

 ケンジさんは拝むように手を合わせる。うう、そんな顔されると弱い。断るのがしのびなくなってきた。

「……分かりました。話を聞きましょう」

「ありがとうございます!」

 ケンジさんの顔がぱあっと華やぐ。

「ミサさん、ちゃんと連れてきてくださいね」

「ええ。なんとかやってみます」

 とりあえず、この日の面談はこれで終了した。ケンジさんは乗ってきた車で帰っていった。

 その場の雰囲気で引き受けてしまったけど、この件はいったいどうなっていくのだろう?

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