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一番弟子

 フードの取れたその女の顔を見てもエルシュは特別驚く様子も悲しむ様子もない。むしろ何の感情も湧かないといった表情だ。


「多分だけどお師さまの弟子の一人よね。ごめんなさい、名前は覚えてないの。私まだ幼かったから」


 エルシュは申し訳無さそうな素振りも見せず淡々と告げ、その様子と言葉にさらに女は激昂する。


「…覚えていないですって?だったら思い出させてあげるわよ。私の名前はダイナ。ダイナ・シャークス。ジャノス様の一番の弟子だった、あなたが現れる前まではね」


 ダイナはジャノスの弟子の中でも秀でた子供だった。ジャノスから将来有望な人材だと言われていたし、何よりダイナ本人がジャノスを尊敬し崇拝していた。


 だからこそ誰よりも勉学に励みジャノスの右腕になるべく日々切磋琢磨していたのに。突然現れた莫大な魔法力を持ち抜きんでた才能を持つ赤ん坊にジャノスとの時間を根こそぎ奪われたのだ。


「あなたが現れてからジャノス様はあなたに時間を使ってばかりだったわ。もちろんジャノス様は他の弟子達を疎かにするようなお人ではないけれど、それでもあなたばかり贔屓されていたのは一目瞭然だったもの」


 憎たらしいものを見るような目つきでエルシュを睨む。


「でもね、あの日ジャノス様が選んだのはあなたじゃなくて私だったの。あなたではなく私を連れて行ってくれた。あなたは見捨てられたのよ」


 ジャノスが数人の魔導師を引き連れて突然帝都から姿を消した日、ダイナもその連れられた魔導師の中の一人だった。


「今回あなたを仲間に入れると聞いて耳を疑ったわ。なぜ今頃になってわざわざ連れて来なければいけないのか意味がわからなかったもの。でも、もし連れて来れなければ好きにしてもいいと言われたの。それってあなたを殺してもいいってことでしょう」


 さも嬉しそうに、うっとりとした顔でダイナは言う。


「本来ならこんな所で魔法を発動したらすぐに魔法省の人間が来てあなたは捕まる。けど、あなたはすでに時空魔法で誰も来れないようにしているものね」


 エルシュは相変わらず感情の乗らない顔でサラリと告げた。


 ダイナはエルシュが中庭に来た時点で今いる空間とは別に別次元の同じ空間を造り出し二人をその空間に閉じ込めた。魔法省の中庭というのは同じだが全くの別次元、二人だけしかいない。


「そう、だから誰も助けには来れない」


 一瞬でエルシュの周りに炎の塊が複数現れ爆発が起こり、エルシュは炎と煙に包まれた。だがエルシュの周りには防御魔法があり傷ひとつつかない。


「ふふ、あなたとこうして戦えるなんて嬉しいわ」

 笑いながらダイナは次々と魔法を繰り出す。


 エルシュの立つ地面の下から多数の氷の刃が繰り出され、エルシュは浮遊しながらそれを避ける。避けている間に無数の風の刃がエルシュを攻撃し、それを避ける間にまたエルシュの周りに爆発が起こる。


「どうして反撃して来ないの?つまらないわ」


 無詠唱で次々と攻撃を繰り出すダイナに対してエルシュは防御するだけ。その様子にダイナはすっかり飽きてしまう。


「つまらないからもうさっさと終わりにして、ジャノス様の元に帰ることにするわ」

 変わらずに無詠唱で攻撃を仕掛けながらもダイナは片手を上空に向けて伸ばした。


「雷の矛よ我の元に馳せ参じよ。疾風のごとく電撃は地を走り雷火は咲き誇る」


ダイナの周りに魔法陣が幾重にも浮かび上がる。


「雷鳴を轟かせ雷獣よ咆哮せよ。ケラヴノスクラウスト!」


天から地面に雷撃が走りエルシュの立つ地面から電撃と爆発が同時に起こった。





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