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エピローグ:それぞれの明日へ

 ジャノスの処遇が決まった後、ジャノスは旅に出た。国外追放とは言っても帝国の領土は広い。すぐに出ていけるわけでもなく、旅をしながら領土から出ていくという流れだ。


 旅立つ前に、ジャノスはエルシュたちをとある場所へ案内した。そこは帝都より遥かに離れたとある森の中、その場所だけ木々は無く開けた草原のようになっていた。


「ここは……」


 そこには沢山の墓石があり、ラウルの姉ケイト名前も見つけられた。


「犠牲にした魔導師たちの墓だ。罪滅ぼしのつもりではないが、こうでもしなければ自分としてもおさまりがつかなかったのだ」


 ジャノスは静かに告げる。


「ここに君のお姉さんも眠っている。遺品も共に埋めてある。これだけは旅立つ前に君に伝えておきたかった」


 ジャノスが言うと、ラウルはケイトの墓の前に座り込む。


「あんたを許すつもりは到底ない。……でも、これについては礼を言う。あんたは姉貴の命を粗末に扱ってたわけじゃなかったんだな」


 ぽつり、とラウルが言うと、ジャノスは後ろを向いて静かに肩を震わせていた。





 ジャノスが旅立ってから数日後。騎士団本部の訓練場では、いつもと変わらずに騎士団員たちが稽古にあけくれていた。


 副団長のニアは複数の隊を掛け持って見ており、忙しそうに声をかけている。


「間合いに気をつけて、相手の動きを読む!」


 ニアの声が響くと、稽古をしていた団員たちがはいっ!と威勢のいい返事をした。


「ニア副団長」


 シュミナールがニアに声をかける。


「シュミナール団長!お疲れ様です。今お戻りですか」

「あぁ、少しいいか」


 シュミナール団長の姿に団員たちの意識がさらに引き締まる。ニアは隊長たちにその場を任せて、シュミナールと共に歩き出す。


 着いた先はシュミナールの執務室だった。


「ニア、これを君に預かっていてもらいたい」


 シュミナールがそう言って差し出した手に乗っていたのは、翠玉色に輝く半分に割れた鉱石だった。


「これは……シュミナール団長の残り半分の魔力の結晶では?こんな大切なもの、私が預かるわけにはいきません」


 慌てるニアを、シュミナールは覇気のない瞳でじっと見つめる。その瞳の奥には静かだが、暖かい炎が宿っていた。


「君に持っていてほしい。副団長である君に、そしてニアという人物その人にだ。これは団長である俺からの願いであり、またひとりのただの男としての願いでもある」


 シュミナールの言葉にニアは驚きのあまり声が出ず、口をぱくぱくさせている。


「もちろん、後者については嫌であれば拒否してもらって構わない。ただ、団長としての願いはできればどうか聞き入れてほしい」


 シュミナールは静かに言うと鉱石の乗る片手を差し出した。


 翠玉色に美しく輝く鉱石を眺めながら、ニアは自分の片手をぎゅっと握りしめ、そしてその手をゆっくりと出して鉱石を受け取る。


「団長の思い、副団長としてしかと承りました。……ニアという人間としても、です」


 後半の言葉は消え入りそうな声だったが、ちゃんとシュミナールには聞こえていた。


「ありがとう。よろしく頼む」




 後日、その話を下町の酒場で聞いたラウルはあきれた顔をしながらもにやにやとして言い放った。


「なんだよそれ、もはや愛の告白みたいなもんじゃねーか」


 その言葉にシュミナールはしれっとした顔をしながらグラスの氷をカラカラと揺らし、それを見たダンロットは目を輝かせて嬉しそうに乾杯したそうだ。






 ラウルとサニャは、色々と落ち着いた後すぐに結婚することとなる。結婚といっても帝国では夫婦の在りかたが自由であり、そんな中でも二人はあえて法に乗っ取った結婚を選んだ。


「あの……本当に私でいいんでしょうか……ラウルさんにはもっと素敵な人がお似合いだと思うんです……」


 ラウルにプロポーズされてからサニャはずっと返答に迷い、なんなら何度か断ってすらいた。なぜならラウルは元々常に取り巻きがいるような色男であり、自分など不釣り合いだと思っていたからだ。


 しかし、サニャと出会ってからというものラウルは取り巻きたちを拒否して近づけないようになっていた。その位サニャに対しては本気だったのである。


 そしてサニャに何度断られようとも、ラウルはめげずに根気よく口説き続けた。


「むしろ俺の方がサニャちゃんみたいな純粋で良い子には不釣り合いだってわかってる。歳も離れてるしな。けど、サニャちゃんじゃないとダメなんだ。俺はサニャちゃんを幸せにしたい」


 極めつけはエルシュたちの援護だ。


「まぁ、あんなだけどラウル先輩は良い人だと思うわよ?サニャのことも大事にしてくれるだろうし。てゆーか大事にしなかったら容赦しないけど」


「ラウルさん、とっても頼れるし決断力もあるからかっこいいと思うよ。何よりもサニャちゃんのことすごく大切に思ってるのが見てわかるし」


「あいつはあんなだが、根はいいやつだ。もしも嫌なことがあれば、すぐに俺やエルシュたちに助けを求めればいい」


 そんなこんなで、めでたくラウルとサニャは夫婦になった。結婚式ではサニャのドレス姿にラウルが見蕩れすぎて大変だったとか。


 そして一年後、サニャ達の間には可愛い可愛い男の赤ちゃんがいた。サニャの綺麗な銀色と同じ銀髪で、顔はラウルに似てイケメンになるだろうことが伺える。


 嬉しそうなサニャの姿に、ラウルは輪をかけて嬉しそうだ。そしてそんな二人に優しく見守られた赤ん坊の魂の元となる粒子のひとつが、一瞬だけ大きく輝きを増して光った。





 それからさらに三年後。


 エルシュとダンロットは帝都のはずれにある高台から二人きりで帝都を眺めていた。


「そういえばお師さまから手紙がきてたの」


 ジャノスは帝都を旅立ってから、今まで犠牲にした命のために各地の聖地や聖域を巡礼しているそうだ。

 元々は帝都の筆頭魔導師、ある程度の護身術には長けているが魔力が全く無い状態の今、いつどこで命を落とすかわからない。


「いつまでこうして手紙が届くかわからないけど、手紙が届いているうちは無事ってわかって嬉しいわ」


 エルシュは返事を書いた手紙を、望む相手へ届けてくれる魔法伝達鳥へ渡して羽ばたかせる。夕日がエルシュの燃えるような銀朱色の髪をさらに朱く輝かせ、風がその髪の毛をふわりと揺らした。


「これで本当によかったのかしら」


 帝都を眺めるエルシュの瞳は少し不安げだ。エルシュたちの選択から三年、相変わらず世界のどこかの土地では争いが起きている。


「後悔してるの?」


 ダンロットがエルシュの顔を覗きこんで聞くと、エルシュは一瞬答えに詰まる。


「……後悔はしてない。でも、あの選択で本当に正しかったのかなって」

「正しいか正しくないかなんてきっと誰にもわからないよ」


 エルシュの答えにダンロットは帝都を眺めながら言う。


「たとえあの時違う選択をしてこの世を終わらせても、また人間が生まれて文明が栄え、それと同時に争いも始まる。その繰り返しだってお師匠さまも言ってたじゃないか」


 エルシュはダンロットの横顔をじっと見つめる。


「どんな選択をしたって正しさも間違いもきっと同時に両方あるんだ。人間ってそういうもんなんじゃないかな。この世自体も」


 エルシュの方を見てダンロットはエルシュの手を握り、にこっと頬笑む。


「だから、選んだ方の道を選んで良かったって思えるように進んでいくしかないんじゃないのかな。きっと俺たちはそれができる」


 ダンロットの言葉に、エルシュは握られた手をそっと握り返す。


「エルシュが迷ったら俺も一緒に迷うよ。悩んだり苦しんだり、楽しんだり喜んだり、そうやって進んでいこうよ。俺達が選んだ未来を皆で一緒に」


 ね、とダンロットが笑うと、エルシュはその笑顔を見て胸の中にふわっと暖かいものが広がっていくのを感じた。


「うん」


 エルシュもダンロットに頬笑むと、ダンロットはそろそろ帰ろうかと近くに繋いでいた馬の元へ歩く。エルシュはまた帝都を眺めていたが、その瞳は穏やかだ。



「エルシュ」


 その呼び掛けに振り向くと、ダンロットが馬の上から手を差し出している。その手を取り、馬に乗るとダンロットはエルシュを乗せて帝都へ馬を走らせた。





~完~




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