声の答え
白髪の男の問いかけに、エルシュは瞳をそらすことなくじっと見つめ返して言う。
「確かにあなたの言う通り、人間は愚かで残酷、不完全な生き物だわ。他をかえりみずこの世の均衡を崩して滅びまでの道を自ら切り開き歩んでいく。それを自覚もせずに」
エルシュの言葉を、観測者である少女はまた変わらず目を瞑り黙って聞いていた。
「その一方で日々を懸命にひたむきに生きている人たちだって沢山いるわ。確かにそういう人たちが損をしたり悲しい思いをすることだってたくさんあるし、そういう社会のシステムにいつの間にか誘導している悪い奴らだっているでしょう」
でも、とエルシュは続ける。
「懸命にひたむきに生きている人たちが損をしないでそのまま生きていきやすいように、生きていけるようにと日々頑張っている人たちだって沢山いるの。私はそれを見てきたし、私の周りはそういう人たちばかりだわ」
エルシュはダンロットたちを見てそう言うと、ダンロットたちもまたエルシュを見つめ微笑んだ。
「生きていれば悲しいことも辛いことも沢山ある。憎しみが溢れてしまうことだって起こる、それでも、それに飲み込まれないで前を向いて明るい方へ懸命に生きていこうとする人たちの未来まで全部奪うのは、きっと間違ってる」
エルシュは拳を握りしめ白髪の男を見つめた。
「希望的観測だと言われようと構わない。それこそ身勝手だと言われても構わないわ、確かにそうだもの。でも、私は皆と一緒に今この瞬間をちゃんと生きてそれを積み重ねて、未来に繋げて行きたいの」
エルシュの朱く燃えるような色の髪の毛が風に吹かれてふわりと舞う。
「それが人間として生まれた声の私の答えよ」
エルシュの答えを聞いた観測者の少女は、目を開けてほんの少しだけ微笑んでいた。
「まぁそうだろうなぁと思ったよ。それじゃやっぱり僕たちは決別だ」
白髪の男がそう言うと、突然空洞に浮いていた結晶がまた真っ赤に輝き、エルシュたちに赤い閃光を向ける。
エルシュたちが避けると、かろうじて所々に残っていた大聖堂の壁や床が次々に破壊されていく。
「接近だからなのかさっきの海への閃光よりは威力は弱いけど、あんなのに当たったらひとたまりもねぇぞ」
ラウルが冷や汗を書きながら呟く。
「全員まとめて防御魔法をかけます!その上から各自防御魔法を!」
エルシュからの指示に、サニャは威勢よくはいっ!と返事をした。
エルシュの防御魔法の上にさらにサニャ、ラウル、シュミナール、ダンロットが次々に防御魔法をかけていく。
閃光はエルシュたちめがけて次々と放たれ続けるが、防御魔法でなんとか食い止めている状況になった。
「ふーん、守りに徹するんだ、いつまでもつかな?」
白髪の男が言うと、エルシュは強気な微笑みを浮かべて返事をする。
「逃げ回ってちゃ何もできないもの」
エルシュは両手を白髪の男に向けてひとつ深呼吸をすると、古代語で詠唱を始めた。エルシュの周りに黄金の粒子が集まりエルシュの瞳も光る。だがそれは黄金ではなく燃えるような朱色だった。
エルシュの詠唱と共に白髪の男の周りにも黄金の粒子が集まってその瞳も同じく燃えるような朱色に輝いていく。詠唱している間にも結晶からエルシュたちに閃光が放たれ、防御魔法の結界にどんどんとヒビが入っていった。
エルシュが集中して力を込めると、エルシュの両手から白髪の男へ膨大な光が流れ込んでいき、それを白髪の男は嬉しそうに受け止めていた。流れ込むほどに白髪の男の形は徐々に歪んでいく。
「僕たちが消えるのが早いか、防御魔法が破られるのが早いかどっちかな」
白髪の男の言葉に、サニャは悲痛な顔をしてダンロットを見る。ダンロットもまたサニャの顔を見て顔を顰めながら頷いた。
それを合図に、ダンロットたちは一斉に白髪の男へ向けて拘束魔法を繰り出した。形が歪み始めた状態で拘束には至らないが、魔力の繋がりはかろうじてできている。
そこへ、それぞれが自らの魔力を送り込み始める。ダンロット、サニャ、ラウル、シュミナール全員から、白髪の男へ大きな光が流れ込んでいった。




