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人形(ヒトカタ)の問いかけ

 呆然とするラウルたちを横目に、白髪の男は楽しげな声で言葉を発した。


「さて、魔力は集まったから次は魂を取り込む番だ。もう結晶に流れ始めているけどね」


 その言葉に、ラウルたちは一斉に白髪の男を見た。シュミナールは宙に浮かんだままのニアを見つめながら剣を強く握りしめる。


 突然、白髪の男の目の前で爆発が起こった。ラウルが魔法を発動したからだ。さらにダンロットが魔法で繰り出した氷の刃が、白髪の男に襲いかかる。だが白髪の男は片手でそれらを受け止め、犠牲になった片手はすぐに再生する。


 片手が再生している最中に、シュミナールが剣をひと振りする。風の魔法で爆風が白髪の男を襲うと次の瞬間目の前にシュミナールが剣を構えている。白髪の男は咄嗟に避けようとするが間に合わず、シュミナールが振り下ろした剣の威力で直下に吹き飛ばされ地面に叩きつけられた。


「……いいねぇ、魔力を取り込んだ君と手合わせできるなんて最高だよ」


 土埃の中から人影が宙に浮かんでくると、白髪の男が服についた埃を手で軽くはらいながら笑っている。


「ちっ、俺たちは眼中に無しかよ」


 ラウルが舌打ちすると、白髪の男は心外そうな顔をする。


「そんなことないさ!君だってじゅうぶん強い、だって特級魔導師だろう?本来なら君だってこっち側にいてもおかしくなかったんだから」


 そう言って、宙に浮かぶ特級魔導師たちを指差す。その言葉にダンロットとサニャは息を飲み、ラウルとシュミナールは怒りをあらわにする。


「さて、攻撃されたからにはお返しをしてあげないとね」


 白髪の男は片手を空にかかげた。するとエルシュたちの目の前に黒い霧のようなものが複数現れ、それは次第に形になる。そこにはマントを羽織いフードを被った何かが、大きな鎌を両手に構えている。フードに隠れて顔は見えないが、フードの中から二つの光が見え、鎌を持つ手は骨だけだ。


 その得体の知れない何かが一体、突然ダンロットの前に現れて鎌を振る。ダンロットは剣で受け止め跳ね返すがすぐにもうひとつの鎌が振りかぶってくる。すんでの所でひらりとかわすと、剣に強化魔法を施して剣を相手に振り下ろした。


 だが、そこにはもうそれはおらず、気づくと少し離れた場所で鎌を構えていた。他の面々も同じように対峙し戦っていたが、同じように瞬間移動されて攻撃をかわされてしまう。


「めんどくせぇ奴らだな」


 ラウルが苛つきながら言うと、エルシュは両手を広げて意識を集中させる。すると、得体の知れない何かたちを光の塊が覆う。得体の知れない何かは鎌を振るが覆う光は破られない。さらにその光の塊の中で光の閃光が次々に放たれると、得体の知れない何かは光の塊の中でシュウシュウと煙になって消えていった。


「光魔法ですね!しかも何体も同時にだなんてさすがです!」


 サニャは皆に防御魔法をかけ続けながら目を輝かせて言う。


「時間がないのよ」


 余裕のなさそうなエルシュに、シュミナールたちは眉を顰めて目を合わせた。



「声である君はきっとこの世を終らせる選択はしないだろう。なんとなくそんな気がする。でも、その上でもう一度聞くね」


 白髪の男はエルシュに向かって言う。


「人間は醜いものだ。もしかすると一部の人間はこの世の均衡から外れることなく生きているかもしれない。美しい魂を持ち、強い心を持ち、慈悲深く思慮深く、懸命にひたむきに生きているかもしれない」

 

 でも、と白髪の男は言う。


「そんな人間ばかりじゃない。むしろそうじゃない人間の方が多い。妬み、恨み、貪欲で他をかえりみない。争いを好み自分さえよければ構わない人間ばかりだ。美しい魂を持ち強い心を持ち慈悲深く思慮深く懸命にひたむきに生きようとする人間ほど、損をすることだってある」


 白髪の男の言葉を観測者である少女は瞳を閉じ、黙って聞いていた。


「この世は愚かな人間ばかりだ。進化しようとして少しずつ少しずつ、でも確実に全てを破壊しようとする。そしてそれにすら気づかない、それが人間だ」


 白髪の男は空の下を眺めながら言う。


「そろそろまた終らせるべき時なんじゃないのかな?何度でも過ちを繰り返すならば、何度でも終らせるべきだろう。それが僕たちの役目だ」


 それとも、と白髪の男はエルシュを見つめて言う。


「君は、それでもこんな世をこのまま変わらず残していたいと思うかい?」






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