結晶の力
エルシュたちが観測者と話をしている間に、ジャノスから取り出された魔力の結晶はニアたちの魔力を取り込み一段と輝きを増し、その輝きの中でそれは形を変え少し大きくなっていた。
突如、ゴゴゴゴゴ……と地鳴りがして地面が揺れる。
「君たちが観測者に気をとられている間に、魔力が全部集まったみたいだ」
白髪の男は嬉しそうに頬笑む。
その言葉がまるで合図になったかのように、大聖堂の床が浮かび上がる。壁は所々崩れ、絶妙に残っている箇所がある。ニアたちの浮いている場所の地面は魔法陣の形通りに丸く残り、魔力の結晶が浮いている地面の真ん中だけがポッカリと空洞になっていた。
「さぁ、空の旅へご案内だ!」
白髪の男が両手を広げると、エルシュたちがいる大聖堂の一部がどんどんと空へ昇っていく。エルシュはダンロットに、サニャはラウルに抱き止められ、シュミナールは片膝を床について体制を保っていた。
どんどんと空へ昇っていく大聖堂に、サニャは驚きのあまり目をぎゅっと瞑ってラウルに捕まっている。
エルシュはダンロットに支えられながらも下方を見下ろすと、帝都が遠くなっていくのが見えた。人の姿や建物がみるみる小さくなっていくと、ある程度の所で大聖堂の昇る速度は遅くなり、ついに止まった。
「やぁ、ここから見る世界はどうだい?みんなちっぽけだろう?」
突如動きを止めた大聖堂に、エルシュたちは体制を立て直して辺りを見渡す。
「一体これはどういうことだ」
シュミナールが静かに聞くと、白髪の男は口の端をにいっと上げる。
「聞くより見た方が早いだろ?」
白髪の男が指を鳴らす。すると、ジャノスから取り出されニアたちの魔力を取り込んだ結晶はまた輝きだし、急降下する。落ちた先は丸く空いた空洞の中心で、そこで止まった。
すると先ほどまでは虹色に輝いていた結晶が突如真っ赤に輝き出したかと思うと、急に赤い閃光を下方へ放つ。そこには大きな海があったが、閃光が届いた瞬間にものすごい規模の爆発が起き爆音が鳴り響く。そしてそこには大きな大きな穴が空いて、周りの海水がどんどん流れこんでいく。
エルシュたちはその光景に目を見張った。
「どう?すごいでしょ。魔力が集まっただけで、もうすでに立派な破壊兵器みたいなもんだよ」
そう宣う白髪の男を、ラウルたちは信じられない者を見るような目で見つめていた。
「声は最後の選択の決定打だ。でもその声がもし終わりと再生を望まない選択をしても、人形は結晶の力でこの世の修正をある程度はすることができる。全体の半分位は破壊して、あとは自然な再生力に任せるんだ。結晶に魔力と魂全てが集まった状態であればそれは可能だからね。そこで人間が再生できずに絶滅したとしても別に構わない」
だってこの世の均衡を正常に戻すためだから、と白髪の男はにっこりとして言う。
「そんなの、お師さまの書記には書かれてなかった!」
エルシュが悲痛な叫びをあげる。
「観測者、ちゃんと伝えてなかったの?」
白髪の男が少女を見ると、少女は心外そうな顔で答えた。
「いや、全て漏らすことなく伝えてある。除いていたとするならむしろそれは人形の生成者であるサンクレフト家そのものだろうな」
「どういうことだよ!」
ラウルが噛みつくと少女はため息をつき答える。
「サンクレフト家は、この世の均衡のために全てを終わらせ一からやり直すことが自らの使命だと思い込んでいる節がある。元々はただ人形を造りだし声を育て選択を見届けるだけの中立的な立場だったが、年月を重ねるごとに、またその代の者の考えが色濃く残り、偏ったものがサンクレフト家の中で受け継がれていったのだろう」
人間なぞそういうものだからな、と少女はなんてことない顔で言う。
「じゃぁ、今までの声たちの選択は無駄に終わったこともあったっていうのか?」
ラウルが苦しげに言うと、エルシュは黙って海を見つめている。そんなエルシュをダンロットは辛そうな顔で見ていた。
「何を持って無駄とするのかはわからんな。それに選択肢の数が限られているわけでもなかろうて。そこの声は気づいているのであろうがな」
少女が美しい紫水晶色の瞳でエルシュを眺めた。




