無限の中での有限
大聖堂の入り口に突如魔法陣が現れる。そしてそこにはエルシュ、ダンロット、シュミナール、ラウル、サニャがいた。
「随分と早かったね。まだ完全に魔力は集まりきれてないのに」
白髪の男が両手を広げ、肩をすくめるジェスチャーをする。
エルシュたちは反論しようとするがふと視界の片隅に、見慣れない顔があることに気づく。それはポンチョのフードを被ったピンク色の髪の少女で、ふわふわのAラインのスカートが小柄な体に似合っている。手には大きな杖と大きな書物を抱えてエルシュたちをじっと見つめていた。
「おい、そこのちっこい子!なんでこんな場所にいるんだ?あいつに連れてこられたのか!?」
ラウルが声をかけるが、紫水晶色の瞳はラウルを一瞥しただけで何も答えない。
「まさかその子も魔法の発動条件なんですか?そんな小さな子供を使うなんて……!」
サニャがひどい!と悲痛な声をあげると、白髪の男はケラケラと笑いだした。
「ねぇ、聞いた?子供だってよ!くっくっくっ、子供扱いされてる」
言われた少女は、また紫水晶色の瞳をチラッと向けただけで何も言わない。
「子供に見えるかもしれないけど、彼女は君たちよりもよーっぽど人生の先輩だよ。ずーっとずーっと古くからのね」
はぁ?とラウルが疑問の声をあげると、エルシュがハッとして何かに気づいた顔で言う。
「まさか、『観測者』?」
エルシュの言葉に白髪の男はにっこりと頬笑むと、エルシュの周りの皆は説明を求める顔でエルシュを見る。
「『この世の行く末をその都度観測し記して後世に伝える観測者。声の選択でこの世がリセットされた場合でも唯一生き残り、もしくは次元を越えてまた別のこの世の行く末を見守る。人でありながら人を越えた先の意図を知る唯一の存在』。お師さまの書物にそう書いてありました」
エルシュたちに一斉に見つめられ、さすがの少女も少し落ち着かない様子になる。
「すみません、何も知らずに見た目だけで子供だなんて……」
サニャが申し訳なさそうに謝ると、少女はほんの少しだけ微笑んだ。
「気にすることではない。何も今回に限ったことではなく毎度毎度言われることだ。もはや慣れっこなのでな」
少女の言葉にサニャがホッとすると、今度はラウルが疑問を投げ掛けた。
「観測して記すってことは、今までのことも全て見てたってことか?この状況も?」
「いかにも」
「あいつらを助けることもせずに?」
浮かんでいるニア達を見ながらラウルは聞く。
「いかにも」
その言葉にラウルが思わず反論しそうになると、少女はチラリとラウルを見据える。その瞳は有無を言わさぬ力があるように思えて、思わずラウルは口を閉ざしてしまった。
「私はこの世の流れに介入することはできない。それがこの命の誓約であり制約でもある。私ができることは、すべての命の行く末を見届けそれを残すことのみだ。この命が続く限り」
「それって……」
サニャが思わず呟いてからうつむく。
(目の前の光景に介入できないっていうことは、助けられることができるかもしれない人を助けることができないってこと?この観測者さんは辛くないのかしら……大切な人を守ることもできないとしたら……それともそういう存在もいないってことなのかしら?……わからない、一体どういう気持ちでずっとずっと生きてきたのかしら……)
予想すらつかない観測者の長い人生と感情を考えて、サニャは胸が苦しくなる。
「お前たちが私のことをどう思おうが観測者の立場をどう感じようがお前たちの勝手だ。そこに正解も不正解もない。好きにすればいい」
ただ、と少女は杖をニアたちに向けながら促す。
「あまり時間がないのではないのか?時間はどんな時でも進んでいくものだ。無限の中で有限を感じることこそこの世の成り立ちでもあり醍醐味でもあるのだぞ」
その言葉の通り、こうしている間にもジャノスから取り出された魔力の結晶はどんどん光を増していた。




