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観測者

 ラドギウスたちとの会話が終わり、エルシュ達は白髪の男が待つ大聖堂へ向かおうとしていた。


 城内、魔法省、騎士団本部は移動魔法陣で繋がっているため魔法陣を使えば簡単に移動できる。だが、エルシュたちは時間を短縮するため、ラドギウスたちのいる城内の守護結界場へ来るのでさえも、自らの転移魔法で移動してきた。そしてまた、大聖堂への移動も転移魔法で移動しようとしている。


「魔法省まですぐに移動できるけどそこから大聖堂へはまた少し時間がかかってしまいます。ここから大聖堂まで転移魔法で移動しましょう。ほんの少しの時間でさえも惜しい」





「なんだ、あっという間に異獣魔は倒されちゃったみたいだ」


 何かを感じ取った白髪の男は宙にふわふわと浮きながら胡座をかき、肩肘をつきながら残念そうに呟いた。


「ねぇねぇ、エルシュはどうすると思う?世界を残す選択をするかな?それとも全て終わらせて一からやり直す選択をするかな?どっちだと思う?どうせなら賭けようよ、賭けるものなんてどこにもないけどさ」


 白髪の男は近くに佇むピンク色の髪の毛の小柄な少女に声をかける。フードから覗く瞳は美しい紫水晶色をしており、くりっとしていて愛くるしい顔をしている。だがその美しい瞳は白髪の男へ冷たい目線を向けた。


「彼女がどんな選択をしようと私があれこれ思うことではない。私がすることはただこの世の成り行きを見届け、それを正確に記しておくだけだ」


 そう言われた白髪の男はふーんとつまらなそうな顔をするが、すぐに興味深い目を少女に向ける。


「君ってさ、今までもこの世の分岐点を沢山沢山見届けてきたんでしょう。何が一番面白かった?何が一番驚いた?」


 そう問われた少女は、変わらず冷たい目線を送るのみだ。


「別に。それぞれの声がそれぞれの選択を行ってきただけのこと」

「なにそれつまらない。ねぇ、その本には今までの長い長い歴史の全てが記されているんでしょう?見せてよ」


 白髪の男は少女の持つ一冊の大きな書物に手を伸ばした、だが少女はいとも簡単にひらりとかわす。白髪の男の顔が一瞬真顔になり、少女が瞬きをして目を開いたその時にはすでに白髪の男は目の前に現れ、書物に触った。

 その瞬間、少女が持つ杖から目が眩むほどの光が放たれ、白髪の男の手からはジュウジュウと煙が出て焼け焦げていた。


「容易く触ることはできぬ物だというのに、なぜわざわざ触ろうとする」


 呆れたような顔で少女は告げると、白髪の男はえへへと笑う。


「ねぇ、そんなにながーく生き続けてつまらなくないの?君って一応人間でもあるんでしょう?特別に長生きしなきゃいけない命なのって嫌にならない?それに感情ってものがあるんでしょう?辛くないの?」

 

 白髪の男の手がいつの間にか再生されているのを興味なさそうに見つめながら、少女はふむ、と呟く。


「感情か。あったとてそれがなんだというのだ。つまらないかどうか、嫌かどうかは自分で変えられるものと変えられないものがある」


 少女は白髪の男に触れられた書物の箇所を手のひらでささっと払うと、白髪の男を見て、大聖堂の中を一通り見渡した。


「この光景を何度も見てきたが、その時の人形ヒトカタの生成者、人形ヒトカタ、声の主、誰一人とて全く同じ者などおらなんだ」


 白髪の男は少女の話に、興味深そうに耳を傾ける。


「つまらないかどうか、嫌かどうか自分で変えられないものはともかく、変えられるものであれば変えていけばいい。私はこの世の成り立ちや流れに手を加えることはできない。ただ観測し記録するのみだ。それをつまらないと思うかどうかは自分次第でどうにでもなる」


 そして、と少女は強気な顔で少し微笑んだ。


「どんな成り立ちでも流れでもそのひとつひとつ全てが違うものであり、そこにはその世に生きる全ての命の全ての物語がある。それをつまらないと思ったことは一度たりとてない」


「なるほどね、君が観測者たる所以がわかった気がしたよ。適任だ。僕も次に成るなら声か観測者になりたいな」


 少女の答えを聞いて、白髪の男は少し悲しげに呟いたようだった。






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