皇帝ラドギウスの采配
帝都中が突然獣魔で溢れ出したと報告がきた時、ラドギウスは直ぐに騎士団へ民を守るように指示を出した。
状況を把握するにも連絡系統すらままならない状況だったため、とりあえず現場に指揮権を預け避難する。
その後、すぐに側近たちと守護の結界場に逃げ込み今後の対策を練ろうとしたその時。
守護の結界場の入り口から突如異獣魔が現れたのだ。本来であれば守護の結界場に逃げ込んだ者を守るために造られたはずなのに、その異獣魔はあろうことかラドギウスたちに牙を向けた。
「守護の結界場に異獣魔が配置されているということは騎士団には知らされておりません。むしろ、異獣魔を造り出しているということさえもです。これは一体どういうことでしょうか」
シュミナールは団長として、あえて感情を込めずに淡々とラドギウスに訪ねる。
「異獣魔についてはまだ研究段階だったため、騎士団にさえも秘密にしていたことだった」
ラドギウスはぽつり、ぽつりと話し始める。
帝国を良く思わない国々はまだ多く、全てを統一できているわけではない。統一することが目的ではなくただ適切な距離感で友好関係を築くことができればそれで構わないが、こちらに敵対の意志はなくとも向こうから攻撃を仕掛けてくる可能性が高い。
敵対心を向けてくる国々には様々な研究を行い高度な魔法や獣魔を操る術も開発されているようだ。
「こちらにはかつてジャノスがいた、そして今はエルシュがいる。エルシュさえいれば帝国は安泰であろう。だがしかし、ジャノスは突如姿を消した。もしもジャノスに帝国を欺く心がありエルシュがそれに加担するとなれば、帝国は瞬く間に消滅するだろう」
ラドギウスは苦しそうな顔で言い放つ。
「だからこそ、ジャノスが突如姿を消した頃から秘密裏に異獣魔の研究を行ってきていたのだ。帝国を守り帝国に住まう民達を守るために。そして創造に成功したはずの異獣魔をもしもの時のために守護の結界場に配置していたのだが……結果がこれだ」
すまない、とラドギウスはエルシュを見つめて言う。
「ジャノスやエルシュを信頼していないわけではないのだ。だが、二人の力は……特にエルシュの力はあまりにも危険すぎる。だからこそなのだ」
ラドギウスの言葉にダンロットはきつくきつく拳を握る。本来であれば反論したい事でいっぱいだが、相手は皇帝ラドギウスであり、ダンロットは騎士団の中で隊長である。立場を考え、自らの気持ちを抑え込むことで必死だった。
「ラドギウス様の話はわかりました」
エルシュが静かに言う。
「この力のせいであれば仕方ありません。そもそも今のこの状況を作り出しているのも師であるジャノスであり、私もその原因のひとつでもあるので」
その言葉に、ダンロットたちは一斉にエルシュを見つめる。
「それは一体どういうことだ……やはりジャノスは帝国を欺いていたのか……」
弱々しく言うラドギウス。
「詳しく説明する時間がありませんが、帝国を欺いていたのではなく、この世界に住まう人々全体を欺いていたのかもしれません」
エルシュの言葉に、ラドギウスも側近たちもわけがわからないという顔をしている。
「とにかく、この力が私にある以上、このケリは私がつけてきます。私にはその義務も権利も選択権もあるのですから」
エルシュの言葉にダンロットはかたく拳を握りしめ、目を瞑って俯き、一呼吸おいて顔を上げる。
「エルシュがケリをつけると言うのであれば、俺はその手伝いをしてどんな結末であろうと最後まで見届けます」
ダンロットがそう告げると、ラウルやサニャ、シュミナールも次々に目を合わせ頷く。
「お前たちに全てを託すしかないのだろうな。何もわからない私が言えた立場ではない、そして頼めることでもないのかもしれないが……どうか、どうか頼む」




