魔力の使い道
シュミナールは、割った片方の鉱石を片手で握り潰した。パキィンと鉱石が弾けると欠片は翠色の粒子となりキラキラと空中に飛散している。翠色の光がシュミナールの握る片手から身体中に広がっていった。
どくん、とシュミナールの心臓が大きく動く。するとシュミナールの脳内に突然様々な記憶が走馬灯のように流れていく。それは魔力を持っていた頃の記憶であり、魔力自体に残っていたものだった。
(これは、俺の、過去の記憶……?)
「ぐっ……」
胸元を抑え呻き声をあげるシュミナールを、エルシュたちは心配そうに見つめていた。
「うっ、うおおおお!!!!」
膝を着き胸元を抑えながら天井を見上げシュミナールは雄叫びをあげる。
「シュミナール!」
ラウルが叫ぶと、シュミナールはガクッとうつむいて静かになった。シュミナールの身体全体が翠色の光で覆われている。次第にその光は弱まり消えていった。
「団長、大丈夫ですか!?」
声をかけるダンロットに、シュミナールは静かに顔を上げ目線を向ける。
「あぁ、なんとか大丈夫だ」
ゆっくりと立ち上がるシュミナールにエルシュたちもホッとする。
「魔力、取り込んだんですね」
「ジャノスに魔力無しでは白髪の男に立ち向かうのは難しいだろうと言われていたんだ。取り込むのであれば慣らすためにもまずは半分だ、とも」
手を握っては離し握っては離しを繰り返す。
「急だったな」
「この状況では仕方ないと思ってな。捕らえられた皆があの状態な上にラドギウス様も危ないとなればゆっくりもしていられない」
ラウルがやれやれというような顔で言い放つと、シュミナ―ルはいつもの顔で静かに言った。
「体は大丈夫なんですか」
エルシュが心配そうに訪ねる。半分であってもシュミナールの魔力は見るからに強く膨大な量だ。
「完全に馴染んだかどうかは不確かだが、今の所問題はない」
シュミナールの言葉にサニャはよかった!と跳び跳ねて喜ぶ。
「ラドギウス様が危ない。急ごう」
*
エルシュたちがラドギウスたちの元へ駆けつけると、側近や護衛兵がラドギウスを庇うようにして異獣魔と戦っていた。何人かは既に負傷しているようだ。
「怪我をなさってる方の治療は私が!」
サニャが走り寄り治癒魔法をかけ始める。異獣魔はエルシュたちを見ると大きく長い爪を振りかぶり、それをエルシュたちはギリギリの所で避ける。
「さっさとケリをつけて皆の所へいかないと」
エルシュが言うと、シュミナールが皆より一歩前に出て剣を構える。シュミナ―ルは静かに目を閉じ、ゆっくりと深呼吸して目を見開き異魔獣を見た。
『風の剣よ我が呼び声に答えよ。風の誇りと共に目の前の敵にその大いなる力を示せ。風の刃で彼の者を貫き跡形もなく消し去れ』
シュミナールは一字一句に集中して言葉を発する。その低く響く声が言葉を紡ぐと同時に、シュミナールの持つ剣から翠色の光が発せられ、異獣魔の周りに複数の魔法陣が浮かび上がりそこから翠色の光の剣が伸びてくる。
『ウェングラデザトス』
その一声と共に複数の魔法陣から翠色の光の剣が異獣魔へ、四方八方からブーメランのように回転して突き刺さる。異獣魔は呻き声をあげてその場に崩れ落ち、黒い煙となって消えた。
「すげぇ……」
ラウルが驚きのあまり呟く。
「デーゼに魔力を奪われてから十年以上は詠唱なんてしてこなかっただろ、なのになんでそんなに上手く完璧に詠唱できてるんだよ」
ラウルがシュミナ―ルにそう言うと、サニャもうんうんと首を大きく縦に振った。
「魔法を使う相手と戦うことも当然多かったからな。自らは使えなくともどんな魔法にも対応できるように学んでいたんだ。相手の詠唱もしっかり見聞きして覚えていた。どんな詠唱の仕方が一番効力があるかもだ」
シュミナールがそう言うと、ダンロットはさすが!という尊敬の眼差しを向け、サニャはすごいです!と両手をグーにしてキラキラした瞳でシュミナールを見つめた。
「こんな時に言うのもなんなんですけど、シュミナール団長の詠唱の声が聞けて感無量でした……本当に素敵です」
両手を頬に添えてエルシュはうっとりとしている。
「そういえばエルシュは俺の詠唱の声を聞きたがっていたな」
シュミナールが苦笑すると、一同はクスクスと笑いだした。
「あ、あの……談笑しているところ申し訳ありませんが、助けていただいてありがとうございました」
ラドギウスの側近が弱々しく声をかける。
「いえ、ラドギウス様もご無事ですか」
シュミナールがいつもの顔に戻って聞くと、腰を抜かしていたラドギウスがようやく立ち上がり、ゆっくり頷く。
「怪我の治療もしていただきありがとうございました。死者が出なかったのも皆様のおかげです」
側近の一人が深々と頭を下げると、他の側近たちもまた頭を下げる。
「頭を上げてください。我々はすべきことをしたまでです。ところで、一体何が起こったのか聞かせていただけませんか」
シュミナールがそう言うと、側近は事の次第を話しはじめた。




