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器の楽しみ

 目の前にいるのは見知れた騎士団団員の一人。


「そんな、まさか……」


 ダンロットが絶句すると、団員姿の白髪の男はニヤリと笑う。


「騎士団員の魔力をもらうために、騎士団内で殺し合いでもしてもらおうと思ったんだけど、皆優秀だから全然だったんだよね。唯一錯乱して暴れたのがこいつだったってわけ。暴れるだけのことはあるよ、魂はとっても汚かったもの」

 

 その言葉に、ダンロットはショックを隠しきれない。


「ニアだっけ?あの副団長さんもこいつが暴れる様子にびっくりしてたけど、躊躇わずにちゃんと止めに入ったよ。結果こいつは僕に取り込まれちゃったけど」

「ニアはどうした」


 ニアの名前を聞いてシュミナールは剣の鞘をキツく握り締める。


「気になる?それってやっぱり団長として?それとも男として?」


 ニヤニヤとゲスい微笑みで団員の姿をした白髪の男は聞くが、シュミナールは表情を変えない。


「へぇ、さすがは団長様だね。挑発には乗らないか。ニアなら君の代わりになってもらうよ。魔力量は君には及ばないけど、こいつの魔力も奪ったから多少足しにはなるだろうし。何よりニアは戦いに赴く騎士のくせに、魂が美しいからね」


 うっとりするように言うと、シュミナールを見ながら目を細める。


「君はまだ魔力を取り込んでいないんだね。せっかくジャノスが僕に奪われないよう後生大事に持っていたのに、もったいない。君が魔力を保持した状態で戦ってみたいのにな」


 エルシュはシュミナールを見るが、シュミナールは無表情のままだ。


「ねぇ、どうしたら魔力を取り入れて戦ってくれる?……そうだなぁ、例えばニアの魂を吸い込んでしまうとか。本当は魂も魔力も残したまま生身の体を使用しなきゃいけないんだけど、ニアの魂は綺麗だからとっても美味しそうだし、本当は食べてしまいたいんだよね」


 その言葉にシュミナールは表情を変えないが、剣を握る強さはさらに強くなる。


「そこにいるサニャちゃんだっけ、その子も魂は美しいし、魔力は別に僕がニアのを取り込んでしまっていれば問題ないから、その子を代わりにするって手もあるよね」


 団員の姿で気持ち悪いほどの微笑みを向ける先には、サニャを庇うようにして睨みを効かせるラウルの姿がある。


「ニアから魔力と魂を吸い込む時にはジャノスの時みたいに荒っぽいやり方じゃなくて、ちゃんと口移しで奪いたいな。その時は僕の姿が良いかな、それとも騎士団員のこいつ?あぁ、それとも」


 グニャリ、と形を変えてから人形ヒトカタは言う。


「この姿が良い?君の時みたいに」

「貴様あ!!」


 デーゼの姿になって妖艶に頬笑む白髪の男に、シュミナールは怒濤の切り込みを入れるが、またもや間一髪の所で避けられてしまう。


「やーっと本気になってくれた。君のそういう姿が見たかったんだ」


 グニャリとまた形を変えて今度は本来の白髪の男の姿に戻った。


「お前はなんでそんなに楽しそうなんだよ!」


 怒りをあらわにしてラウルは聞く。すると、白髪の男は突然スンッと真顔になった。


「楽しそうに見える?だったらきっとそうなのかもね。いいかい、君たちみたいに人間ではない僕には、しいってものが本当はないんだよ」


 真顔で言うその顔は今までのように愉快そうなものはどこにも見当たらず、ただただ何もないような器がしゃべっているだけかのようだ。


「君たちのような人間には楽しみが沢山あるだろう。娯楽だって食だってその他にも色んなものが沢山ある。だが僕には何もない。僕はただこの世の均衡のために生み出されただけだ」


 白髪の男の言葉に、エルシュたちは呆然と見つめるだけだった。


「だったら、楽しめることといったら君たちのような人間の揺れ動く感情を、ひとつひとつ引き出していくだけだ。僕には備わっていない、わからない、様々な感情を引き出して、壊していく」


 無表情だった白髪の男はまた妖艶に微笑みながら言う。


「それを、「楽しむ」んだよ」



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