倒せない敵
「なーんだ、あっけなくバレちゃったか」
ケイトは嫌な笑みを浮かべながら吐き捨てる。
「お前、白髪の男だろ」
ラウルが言うとサニャは驚いた顔をするが、シュミナールやダンロットは驚く様子もなく剣を構えた。
「性別なんてないけど、そうか、君たちにはあの姿が男に見えるのか。まぁそう呼んでもらって構わないよ、僕はデーゼみたいに呼び名にこだわらなかったから名前なんてないし」
ケイトの姿、ケイトの声でそう言われ、ラウルは気持ち悪さで吐き気がする。
「まぁ、ラウルったら大丈夫?」
さもしらじらしくケイトが心配するかのような素振りに、エルシュは怒りで思わず無詠唱魔法で攻撃をする。だがケイトは当然のように防御魔法で無傷だ。
「おやおや、いいのかい?仲間のお姉さんに攻撃したりして」
「あなたはケイトさんじゃない」
ケイト姿の白髪の男が嬉しそうに言うとエルシュは怒りに満ち溢れた声で答えた。
「なんでそんな格好してるんだよ、俺の姉貴に成り済ますなんていい度胸してるじゃねーか」
吐き気をこらえたラウルがケイトを睨みながら言う。
「別に成り済ましてるわけじゃないよ。君のお姉さんの魂も魔力と一緒に取り込んであるからね。当然でしょ、デーゼを消す時に使われた魂と魔力は全部僕を造り出す時に、僕に取り込まれてるんだから」
ケイト姿の白髪の男の発言に、一同は渋い顔をする。
「ほら、こういうこと」
言葉と共にケイトの姿がぐにゃぐにゃと形を変え、また別の姿になった。
「なっ……!ダイナ!?」
「わかってたとは思うけど、ダイナも僕に取り込まれたからね。彼女の姿になることもできる」
ヒラヒラと片手を軽く振って楽しげに笑う。
「躯があればその躯に入って動かすこともできるけど、僕はあんまり躯が好きじゃないから」
このほうが好みなんだ、と両手を広げて飛びきりの笑顔をエルシュたちに向けた。すると、突然ダイナ姿の白髪の男の前にシュミナールが現れ、剣を振るう。
「やっぱり速いねぇ!さすが団長様々だ」
ダイナ姿の白髪の男は間一髪の所で剣を避ける。すかさずラウルが風の刃で、ダイナ姿の白髪の男を攻撃し切り刻む。さらにダンロットが素早く動いてダイナ姿の白髪の男の胸元に剣をひと突きした。
「とらえたか!」
ダンロットの剣がダイナ姿の白髪の男の胸を貫いた、その時。
「どう……して……」
ダンロットの目の前にはダイナではなく、口から血を流し涙を流すケイトの姿があった。
「……!」
思わずダンロットがひるむと、血を流す口元がわずかに弧を描いた。
「ダンロット!騙されるな、そいつはケイトではない!」
シュミナールの声に、ダンロットはハッとするが、ケイトは歪んだ笑顔を向ける。
「せいかーい!」
目の前に出されたケイトの片手から光が繰り出され、爆発と共にダンロットが吹き飛ぶ。
「ダンロット!」
ラウルが叫ぶと、防御魔法で守られたダンロットが吹き飛ばされた先の地面に着地していた。
「皆さんのことは私が絶対に守ります!」
両手を目の前に突きだしたサニャが長いおさげを宙に浮かべながら、キリッとした顔で言う。
「さっきまであの姿に簡単に騙されてたのに、さすがだな」
ラウルが優しい顔でからかい気味に言うと、サニャは顔を真っ赤にしてわたわたする。
「頼りにしてるぜ」
ラウルが真面目な顔で言うと、一瞬ほうっとした顔になったがすぐにサニャも真面目な顔ではいっ!と返事をした。
「なーんだ、せっかく面白かったのに」
ローブについた埃を手で軽くはたきながら、ケイト姿の白髪の男は笑顔のままだ。
「切り刻まれても剣で突き刺されても致命傷は愚か、かすり傷にもならないということか」
傷が塞がれ余裕の顔でいるケイト姿の白髪の男を、シュミナールは睨み付ける。
「まぁ、僕はデーゼから引き継いだ分も含めて、沢山の魂と魔力を取り込んでいるからね。それが枯渇しない限りは簡単に再生するし、通常の攻撃じゃ倒せないよ、わかってるとは思うけど」
ぐにゃりとまた形が変化して、今度はまた別の姿になる。
「お前は……!」
絶句するシュミナールとダンロットの瞳に映るのは、とある騎士団団員の姿だった。




