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それぞれの思い

「シュミナール、君の魔力についてだがまだ取り込んではいないようだね」

 

 ジャノスとの話が終わり、最後に部屋を立ち去ろうとするシュミナールは声をかけられた。


「今まで魔力なしでここまできたので、今さらこれを受け取っても使い方に困るのが正直な気持ちです」


 シュミナールはジャノスに向かって淡々と言う。


「そうか……君は本当に強いんだな。だが帝都で奴と戦うとなると魔力無しではかなり難しいだろう。きっとその魔力を必要とする時がくる」


 ジャノスが目を瞑り静かに言うと、シュミナールは眉を顰める。


「もしその時が訪れたなら、まず魔力は半分だけ取り込むといい。その大きな魔力を全て取り込もうとしても、今まで魔力を使っていなかった身体が受け止めきれないだろう」

「……ご忠告、ありがとうございます」


 シュミナールが静かに答えるとジャノスはそっと微笑む。


「憎いであろう相手にそうやって素直に礼を言えるのもまた君の強さか。……君たちのような人間ばかりの世界だったならどんなによかっただろうな」


 窓の外を眺めながらぽつりと言うジャノスにシュミナールは何か返事をしようとするが、ジャノスの様子を見て口を閉ざした。




 部屋を出るとラウルが入り口の壁に寄りかかり腕を組んでいた。


「話は終わったのか」

「あぁ」


 ラウルはシュミナールの顔を見ながら苦しそうな顔をする。


「ニアは大丈夫だと思うか」


 ラウルの言葉にシュミナールは一瞬表情を揺るがすがまたいつもの顔に戻る。だが拳は固く握られ今にも血が滲みそうな勢いだ。


「大丈夫だと信じるしかないだろう」


(大丈夫という保証はどこにもない。むしろ危険な目にあっている可能性のほうが高い。……ニア、どうか俺たちが向かうまで無事でいてくれよ)






 その日の夜、コンコンとジャノスの部屋がノックされる。


「お師さま、少しよろしいでしょうか」

「エルシュか。入りなさい」


 ジャノスの前に現れたエルシュの顔はいつになく真剣だ。


「小さい頃はただただ魔法と詠唱にだけ目を輝かせる子だったが、色んな表情をするようになったのだな。彼らのおかげか」


 ジャノスはエルシュを優しげな表情で見つめる。


「そうですね、皆のおかげで今の私はあるんだと思います」


 エルシュは嬉しそうに微笑むと、ジャノスは瞳を閉じて口の端をほんの少しだけ上げた。


「どうするか気持ちは決まったのか」


 ジャノスの問いにエルシュは頷く。


「お師さまにひとつ確かめておきたいことがあります」


 エルシュがきちんと閉めたと思っていたジャノスの部屋の扉は、ほんの少しだけ開いていて光が漏れ出ている。二人の様子を見ていた何者かが、二人の話を聞いて慌てるようにその場を後にした。





 ニアを担いだ白髪の男は、魔法省の奥にある大聖堂に来ていた。そこには気を失った特級魔導師や一級魔導師たちが一人ずつ床に横たわっている。


「君はここの位置だよ」


 白髪の男はニアを下ろすとゆっくりと床に横にする。その地面には魔方陣が描かれていた。大聖堂の中央にはジャノスから取り出した魔法が結晶化した鉱石が虹色に輝きながら浮遊している。


 ふと、白髪の男は何かに気づいて後ろを振り返り嬉しそうに笑う。


「おや、そろそろかなと思ってはいたけれど、やっぱり来てたんだ」


 そこにはフードを被った薄いピンク色の髪色をした小柄な女の子が、杖と書物を持って佇んでいた。



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