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 ニアが白髪の男に捕獲されている頃、ベルシエの宿の一室でエルシュたちは話を進めていた。


「お師さまの書は解読を進めています。でも、詳しいことを直接お聞きしたいのです」


 エルシュが言うとジャノスは天井を見つめたままでいる。


「私が話した所で何かが変わるとは思えないが。奴はすでに帝都に着いて準備を進めているだろう。もし騎士団員の魔力を集めることができていたとしたら条件は揃っているはずだ。あとはエルシュ、君が来るのを待つばかりだろう」


 エルシュへ目線を動かし、静かな声で言う。ジャノスの言葉にシュミナールがキツく拳を握りしめる。


「帝都の人間を見捨てろと言うのですか」

「見捨てるも何も、行った所でお前達に勝ち目はない。帝都だけではなく世界は終わり多くは消え去るのみだ」

「そうやってあんたは今まで出会ってきた命ひとつひとつを見捨ててきたってのか」


 ジャノスの言葉に、ラウルは苛立ちを隠さない。


「なぜ私なのでしょうか。声がどうとか言っていましたが」


 エルシュは騒ぐ心を隠すようにして、いたって平静に尋ねた。


「お前の声が魔法を発動する最終条件だからだ」


 ジャノスの言葉にその場の全員がエルシュを見つめるが、エルシュは表情を変えずにいた。そんなエルシュの手を、サニャは微かに震えながらもずっと握り続ける。


「奴が言っていただろう。エルシュ、お前はそのために生まれてきた。そのための声だ。その声を使わずしてなんのために生まれてきたと思う?」


 ジャノスの問いかけにダンロットは怒りで自分の髪の毛が逆立つのがわかる。


「あんたにエルシュの生き方を勝手に決められる筋合いはない!」

「私が決めたわけではないよ、そうなっているのだ。世の中の仕組みのひとつとでもいうべきか。私がサンクレフト家に生まれこの使命を背負ったように、エルシュは膨大な魔力と才能を持って生まれ私の前に現れた。世界の均衡を戻すためにすべてを滅ぼしリセットする、ただそのためだけに」


 ジャノスはなんの疑いもなくすらすらとそう答える。そんなジャノスに、その場の一同は言葉を失い、部屋が静まり返る。


「あんたやっぱりおかしいんじゃないのか」


 シーンとした部屋の中に、ラウルの声が静かに響いた。それは責めるでもなく突き放すでもなく、ただ淡々とした様子だ。


「確かにあんたはサンクレフト家に生まれてその使命に触れた。家の子供として教え込まれてきたってのもあるんだろうよ、洗脳みたいなもんだよな、それとも呪いか。そしてエルシュに出会ったことでそれが現実見を帯びちまった。それは仕方ないことなのかもしれねーよな」


 ラウルはジャノスから視線をそらさず、ただ淡々と言葉を続ける。


「でも、その時点でエルシュをただ守り育てるだけって選択だってあっただろうが。エルシュだって尋常じゃない膨大な魔力と才能を持って生まれた時点で、確かにあんたの言う何かを背負ってたのかもしれねぇ。でも、それでもそれを生きるかどうかは本人が選ぶことだろ」


 ラウルはしっかりとジャノスの目を見て言う。


「あんたが決めることじゃねぇ。たとえそれがそうなってること、世の中の仕組みだったとしても、それを受け入れるかどうかそこからどう生きるかはその生を受けた本人次第だろ。それを勝手に奪ってんじゃねーよ」


 ラウルの言葉にジャノスは一瞬目を見張る。


「俺はあなたが造り出した人形ヒトカタに魔力を奪われた。記憶が戻った今でもあの光景を思い出すだけでゾッとする。だが、俺は魔力がなくても騎士団としてここまできた。それは俺が自ら選び進んできた道だ。魔力は勝手に奪われたものだったが、そうであっても無くても俺はこの道を選んだことを後悔していない。むしろ誇りに思っている」


 ラウルの言葉に続くように、シュミナールが低く響く声でジャノスへ言う。その声に宿る意思の強さに、ジャノスはまた驚愕した。


「ラウルだってそうだ。姉が亡くなってからも腐ることなく立派な魔導師になると決めて精進してここまできたんだ。あなたを恨んでいても魔法省にいた頃のあなたから教わったことをしっかり役立てている」


 シュミナールの言葉に、サニャはそっとラウルを見つめる。


「……それは、君たちが強いからだろう」


 ラウルとシュミナ―ルの話を聞いて、ジャノスはため息にも似た息づかいで言葉を発した。



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