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騎士団副団長

 シュミナールたちが帝都を出発してから幾ほどか、ベルシエ近くの関所に駐在する騎士団員より盗賊の捕獲とゼダル兵の横暴とその鎮圧についての報告があった。


 団長たちの活躍の連絡があるということは無事であるということでもあり、副団長であるニアは誇らしくまた嬉しくもあった。


 詳しいことはわからないが、どうやら難しい任務へ赴いているようだし、何より出立前の団長の様子が気がかりだった。団長達のことだから大丈夫であろうことはわかっているけれど、どうか無事に帰還してほしいと願わずにはいられない。


(団長の不在中は騎士団全体を任されている、いかなるときも気を引き締めなければ)


 ニアが空を見上げながら思っていると、突然騒ぎ声が聞こえる。


「ニア副団長!大変です!」


 騎士団員の一人が息をきらして慌てて走ってきた。


「どうした!何があった?」

「団員たちの中に突然暴れだす者があらわれて。常軌を逸しています、なんとか抑えている状態なのですが」


(団員で突然暴れだす者?今までそんな奴はいなかったが……悪い酒でも飲んだのか?)


 ニアがその場に駆けつけると、団員が暴れており剣まで抜いている。周りの団員は仲間に対して剣を向けるのをためらっているがどう見ても命の危険がありそうな状態だ。


「おい!どうしたというのだ!一体何があった、落ち着け!」


 暴れる団員に声をかけるが、ニアに気づいた瞬間に襲いかかってくる。その様子はもはや我を忘れているかのようだ。


(こいつ、明らかにおかしい!)


 ニアがそう思っていると団員はニアに剣を振りかざしてきた。ニアはとっさに鞘に収まったままの剣で受け止める。


「くっ、力が強い!」


 本人の力とは到底思えないほどの強さだ。ニアは剣を跳ね返し意識を集中させる。


「許せ、後で謝る!」


 ニアがものすごいスピードで団員の懐に入り込み剣の鞘の先端で手加減なしの峰打ちをする。団員は呻き声を上げてその場に崩れ落ちお腹を抱えるが、気は失っていない。咄嗟に拘束魔法をかけ動けなくするが、抵抗するように唸り声を発している。


(どうしたのいうのだ……錯乱魔法か?しかし一体誰がこんなことを)

 

 ニアが疑問に思ったその瞬間、突然その場の空気が変わり周りにいた騎士団員達が気を失い地面に倒れ込む。


 ニアも異常な空気に充てられそうになるがなんとかこらえていた。


「……この魔法は……一体!?」


「なんだ、もっと騎士団同士で醜くやりあうかと思ったのに全然だったな。命も魔力もそう簡単にはこぼれ落ちないか。さすがは精神面も鍛えられた帝都の騎士団だね」


 声のする方を見るといつの間に現れたのか、白髪に赤目の男が佇んでいる。


「誰だ、貴様は!」


 その不気味な雰囲気を醸し出す男にニアは警戒心を剥き出しにするが、その場一体にかけられた魔法で思うように身動きがとれない。


(くっ、体が動かない!)


「へぇ、君は強そうだね。とっても美味しそうだ。魔力量も申し分ないね」


 ニアを見て白髪の男は嬉しそうに言う。


「でもその前にせっかくだからこいつもいただいておくかな」


 拘束された団員の髪の毛を鷲掴み顔を上にあげさせる。ゆっくり口づけると団員の目が大きく見開き、体から白い輝きが口を伝って白髪の男に流れ込む。最後に大きな光の塊が流れ込むと、団員は事切れたように瞳から焦点が無くなった。


 白髪の男が髪を掴んでいた手を離すと、団員は文字通りもぬけの殻になったように倒れた。その様子を、ニアは驚愕した目で見つめていた。


「やっぱり錯乱魔法にかかって仲間を殺そうとするだけのことはあるね、魂が汚い。まずいし」


 口の端を手の甲で拭きながらうぇぇという顔をする。


「でも君の魂はとっても綺麗で美味しそうだ」

 

 ニアを見ながら白髪の男はにっこり頬笑む。その妖艶な頬笑みはとてつもない恐ろしさまで感じる。目の前の光景にニアはただただ呆然としていた。


「でも残念だな、シュミナールの変わりにするとしたら魂は食べられない」


 シュミナール、という名前を聞いた瞬間にニアは白髪の男を睨みありったけの声を振り絞る。


「貴様、団長に何をした!」

「別に何もしてないよ。あぁ、でも僕の前の姿の奴は魔力を奪っちゃったけどね」


 その言葉にニアは驚き思わず呟く。


「魔力を奪う?団長に奪われるほどの魔力は無いはず……」

「詳しく知りたい?でもざーんねん、そろそろ時間切れかな」


 いつの間にか目の前にいた白髪の男はいなくなり、ニアの後ろから耳元で囁く。その囁きと共に、ニアは気を失い白髪の男に抱き抱えられていた。



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