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集う

「せんぱぁ〜い!!」


 廊下の向こう側からエルシュの元へ全力で駆けてくる少女。左右に揺れる銀色の長い三つ編みのおさげは廊下に射す日の光に照らされてキラキラと輝いているが、少女の顔も大好きな先輩に会えた嬉しさで負けじと輝いている。


「サニャ!相変わらず元気ね」

 

 エルシュの目の前に到着してからは膝に両手を当ててはあはあと息を切らしている。背丈が若干小さいので余計に幼く見える。


「ご、ご無事で、何よりです!」

 顔をあげて嬉しそうに微笑むその顔は純真無垢といっていいほどの可愛らしさだ。その素直さをエルシュは羨ましいとさえ思う。


「言っていた魔法の練習は順調なの?」


 サニャはエルシュの後輩魔導師で水魔法を得意とする。逆に火の魔法は不得意のためエルシュが旅立つ前に課題を出していた。


「なかなか難しくて……でも、先輩がいない間にちょうど練習を見てくれるすごい人が来たんですよ!」

 エルシュの手をとってサニャはずんずんと来た道を戻っていく。向かう先は城に隣接する魔法省の食堂だ。


 魔法省はエルシュたちの職場であり、師が全体の指揮を統率していた場所でもある。


「すごい人って誰?」

「うふふ、会えばわかります。絶対に驚きますよ!」


 魔法省の食堂からは夕食の準備であろうとてもいい匂いが漂ってくる。食堂の扉を開けるとすぐ側の席に見知れた顔とそれを取り巻く女性魔導師たちがいた。


「おう、久しぶりだな」

「ラウル先輩!帰ってきてたんですか」


 長い髪を後ろに束ねたやや浅黒の男。長身でスタイルも良くいつも誰かしら女性魔導師の取り巻きがいるような人だ。


「騎士団団長直々に呼び出しくらってね。なんだ、元気そうじゃねーか」

「元気で悪かったですね」


 ラウルはエルシュの学生時代からの先輩に当たる。ラウルもエルシュに負けず劣らずの剛腕魔導師で、詠唱魔法と無詠唱魔法を同時に操れる数少ない魔導師だ。その腕前からさまざまな任務を任され魔法省を不在になることも多々ある。


「悪かねーよ。お前が元気ないとどうせダンロットの様子がおかしくなるだけだろ」


 ケラケラと豪快に笑っている横でラウルの取り巻き達が突然やってきたエルシュたちを冷ややかな目で見ている。


「おっと、お嬢さんたち。俺はこれからこいつらと話をするから今日はこのくらいで。また明日な」

 席を立ってそう告げると取り巻きたちはえ〜!と不満げな声を上げる。


「いいんですか?みんなすっごい不満そうでしたよ」

「いいんだよ、俺はお前たちとの時間の方が断然大切。別にあんなのにはまたいくらでも時間取れるしな」


 ニッ、と口の端を上げて言うラウルに、サニャは思わず顔を赤らめるがエルシュは冷ややかな目線を送る。


「サニャ、わかってるだろうけどこの人とんでもない人たらしなんだから気をつけてね」


「おうおう、随分な言い回しじゃねーか。それに人たらしなのはお前も同じだろ」

 その言葉にエルシュは思わずはぁ?とドスの効いた声で返事をし、それを見たサニャが慌てて二人の間に割って入る。


「あ、あの、ラウルさんに火魔法の特訓をしてもらってたんです。上達したのを先輩にも見て欲しくて」

「そーうそう、サニャちゃんには手取り足取りちゃんと特訓してあげたんだよな。おかげですっかり上手くなっちゃって。俺様も鼻が高いってもんよ」


「ラウル先輩、その言い方なんか気持ち悪いし本当に手取り足取りだったらこの場でボコボコにしますよ」

 ラウルはお〜こわいこわいと肩を窄めてエルシュを見るが、全く恐れる様子はない。


「ラウルさん、ふざけてそんなこと言ってますけど実際はちゃんと丁寧に魔法を教えてくださってるんです。わかりやすいしさすが先輩の先輩だなって思いました」


 サニャの瞳は尊敬するものを見るような輝きをしていて、その素直な眼差しを向けられたラウルもさすがに少し照れてしまう。


「……俺、こういう素直で馬鹿正直なタイプすごく苦手かも。いや、むしろ好きなのか……?」

 頭を掻きながらボソボソとラウルは言った。


「サニャに手ぇ出したら絶対に許しませんからね」

 ラウルの言葉を聞いて咄嗟にサニャを守るように抱きしめるエルシュ。そして何のことだかさっぱりわかっていないキョトンとした顔のサニャがいた。





 帝都ダーニャよりはるか東、とある山の一角。崖の上で遠くを見つめる男がいる。


「手はずは順調か」

「全てはこちらの思い通りに進んでおります」

 

 男の背後に現れた人影は跪きながら嬉しそうにそう答えた。


「……エルシュ。再会が楽しみだ。お前は果たして再会を喜んでくれるだろうか」


 薄く微笑みながらそう呟く男のフードは風に煽られ頭から外れる。


 その男はジャノス。エルシュの師であり帝国の元筆頭魔導師その人だった。





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