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犠牲

 ポロポロと涙を流し続けるエルシュと、それを見つめるジャノス。だが、その場の状況に水を注したのは白髪の男だった。


「はいはい、感情という人間らしさを得たエルシュちゃんには申し訳ないけど、ひとつ言わせてもらうね」


 白髪の男はにっこりする。


「ジャノスが使命に突き進むきっかけを作ったのは君だよ。君がジャノスの前に現れたからだ。君がいなかったらきっとこんなことにはなってない」

 

 嬉しそうに言う白髪の男の発言に、エルシュは何を言われたのかわからない。


「ジャノスはね、自分の使命について疑問に思っていたしだからこそ研究もしていた。何百年何千年も前の記録について、疑問に思うのは当たり前だろう。ありもしないおとぎ話だと思ってもおかしくない。でもある日突然君が現れた」


 ジャノスは目を見開き、白髪の男を見る。


「尋常ではない膨大な魔力を持つ出生不明の赤子。その存在がジャノスを使命という不確かなものに駆り立てた。君のせいなんだよ。ジャノスがこうなってしまったのも、ラウルの姉が犠牲になったのも、シュミナールが一命をとりとめつつ魔力を奪われてしまったのも、沢山の命が犠牲になったのも」

 

ゆっくりと瞬きをしながら、白髪の男はエルシュを見据える。


「ぜーんぶ、君のせい」


 白髪の男の言葉が、祭壇の中央で鳴り響いた。


「私の、せい……?」


 ぴたりと涙が止まり、エルシュはつぶやく。


「そう、君が生まれてきてしまったせいでこうなった。でも仕方ないよね、そんな風に生まれてきたくて生れてきたわけじゃないもの。君も僕も立場は違えど同じなんだよ。たまたま君が人間に、僕が人形ヒトカタになっただけで、もしかしたら何百年か前は逆だったかもしれない。僕らはこの世のしくみのためにこの世の気まぐれで生み出されただけ」

「ふざけるな!!」


 ダンロットが攻撃魔法で白髪の男に攻撃をする。だが防御されて傷ひとつつかない。


「何がお前とエルシュが同じだ!全く違う!!それにエルシュのせいなんかじゃない!ふざけたことを言うな!!」


 すかさずまた白髪の男に攻撃がかかる。


「てめぇいい加減にしろよ!ムカつくのは顔だけにしろ!!」


 今度はラウルが噛みつく番だった。


「エルシュ、いいか、あの男の言葉は聞かなくていい。あんな奴の言うことに耳を傾けるな」


 シュミナールが剣を構えて言う。サニャも泣きながら両手を広げ、いつでも魔法をくりだせる状態だ。


「はいはい、わかったわかった。血気盛んなのは良いことだけど戦うのは僕じゃなくてこっちだよ」


 白髪の男が片手を掲げると、祭壇中央の魔方陣から物体が浮かび上がる。そこには得体の知れないものが禍禍しい魔力を発していた。ぼこぼこの図体、所々に人のような顔が浮かび上がっている。


 それを見てシュミナールが息を飲んだ。


「まさか魔導師の顔……?」

「お前、また魔導師を犠牲にしたのか?!」


 ジャノスを見てラウルが叫ぶ。


「膨大な魔力を体内に保存しておける人間がいないかどうか魔導師を使って実験していたんだけどね、失敗したんだよ。だから魔力が漏れちゃった」


 ジャノスの変わりに白髪の男が返事をする。


「あぁ、もちろん犠牲になった魔導師達は自ら志願してきたからね」


 結果これだけど、と得体の知れないものを指差す。


「見た目気持ち悪いでしょう、出てる魔力も禍禍しいし。なんでだと思う?彼らが生前貪欲で嫉妬にまみれ憎悪の塊だったからだよ。みんなジャノスのためになりたいなんて言ってるけど、要は周りよりも自分が優れているって証が欲しかっただけ」


 シュミナールたちは眉を寄せ、白髪の男を見る。


「人間なんてみんなこんなものだよ。僕が取り込んで綺麗にしなれけば形にしたってこんなものだ」


 エルシュに気づいて、得体の知れないものから出ている顔達は唸り声をあげた。


「あぁ、君がエルシュだと気づいて敵意を向けたみたいだね。こんな姿になっても嫉妬というものが消えないで残っているなんて、本当に気持ち悪い」


 得体の知れないものから腕のようなものがエルシュに伸びる。咄嗟にダンロットが剣で跳ね返すがいくつもの腕のようなものが瞬時に伸びて邪魔をするダンロットを握る。


「ダンロット!!」


 シュミナールが声をあげると握られた塊が弾け飛び、中から防御魔法で囲われたダンロットが浮遊している。サニャがすかさず防御魔法でダンロットを守っていた。




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