猛朱の魔導師の涙
「……つまり、協力してくれていた魔導師たちの魔力と魂をデーゼを消すために犠牲にしたっていうのか?俺の姉貴の命も?」
ジャノスの話を聞いていたラウルは、驚愕の眼差しでジャノスを見る。シュミナールも、瞳の奥に怒りの炎をさらに宿らせていた。
「人形を造り出す前に、それが未完成だった場合どうすべきかについても皆に説明をした。皆はそれに納得した上で協力してくれていた」
「あんたは人の命をなんだと思ってるんだよ!!!」
ラウルが叫ぶ。あまりの事に、サニャは思わず口元を両手で覆って、声を堪えて泣いていた。
エルシュはジャノスの話を聞いても現実のこととは思えない。何を言われているのかさえわからないような顔をして、ジャノスを眺めている。そしてそんなエルシュを、ダンロットは心配そうに見つめていた。
「人形の器を造り出すことはバランスの崩れたこの世をまた正常に戻すために必要だ。そのためにいくつかの命が犠牲になったとしても仕方のないことだ。それにこの世のバランスを戻すために結果としてほとんどの生命は人形の力によっていずれ失われる」
淡々と告げるジャノスを、横で白髪の男は楽しげに眺めている。
「どうして」
ぽつり、と声がする。
「どうして、お師さまはそんなに簡単に誰かの命を使うことができるのですか。それがお師さまの使命だからなのですか。なんの疑問も持たなかったのですか。考えもしなかったのですか、その人達ひとりひとりに日常があり世界があるということを」
エルシュが、ぼんやりとジャノスを見ながらつぶやく。
「あの日なんのためらいもなく魔法を発動しようとし、島国ひとつ吹っ飛ばそうとしたお前にそれを聞かれるとは思わなかったな。実際に事を成したのは私だったが」
ジャノスは少しだけ苦笑いをする。そのジャノスの言葉に、エルシュは両目を大きく見開いた。
(私は、私は……確かにあの時なんのためらいもなく魔法を発動した。でもそれはお師さまにただ褒めてもらいたい一心で……あの島にいた人たちの命のことは考えていなかった。そうだわ、私には……お師さまに言える立場なんかない)
「いい加減にしてください!」
ダンロットが叫ぶ。
「あなたが当時のエルシュにそれを課したのでしょう!幼いエルシュにそんなことをさせようとしたのはあんただ!」
ダンロットはエルシュの前に立ってジャノスを睨む。
「あんたがいなくなってからエルシュがどんな思いで生きてきたと思ってるんですか!恐ろしい子供だとレッテルを張られ化け物と呼ばれそれでも国のため民のために力を奮ってきたんですよ!あんたにエルシュの何がわかるんだよ!」
ダンロットの叫び声が遺跡中に響き、ラウルとシュミナールはジャノスを睨み付け、サニャはただひたすらに泣いていた。
「私は……私は、ずっとお師さまに置いていかれたと思っていました。お師さまがいなくなってから、より一層ひどいことを言われひどい扱いをされ辛い思いも沢山してきました。だから感情なんてものは必要ないと、心を無にして心に波風の立たないように生きてきたんです」
ぽつり、ぽつりとエルシュが語り出す。
「でも、ダンロットや皆と接するうちに、辛いことだけじゃなくて楽しいことも嬉しいことも沢山あるんだって。ひとりひとりが楽しいこと嬉しいこと悲しいこと苦しいこと全部を感じて、それでも生きてるんだってわかったんです」
皆がエルシュを見つめるが、エルシュはその視線に気づかないまま話し続ける。
「だから、もしかしたらお師さまはそれを私に教えたかったんじゃないかって。そのために私を置いていったんじゃないかって思っていたんです」
エルシュは涙を浮かべてジャノスを見る。
「違うのですか。そうではなかったのですか」
微笑みながら涙をポロポロと流して言うエルシュに、その場の誰もが息を飲む。そして、ジャノスはそんなエルシュを見つめたまま、何も言えなかった。




