人形の器
それは、エルシュが島国をひとつ滅ぼし多くの魂をジャノスが獲得してすぐにジャノスがエルシュの前から姿を消してすぐの頃。ジャノスは獲得した多くの魂を使って一つ目の人形、デーゼを生み出していた。
人形の器は生み出された瞬間からなぜこの世に降り立ったのか理解している。誰に教えられるわけでもなく導かれるでもなく、ただそれをわかっているのだ。
デーゼも自分がなぜ生み出されたのか、その意味をわかっていた。わかってはいたが、つまらないと思った。
人形には性別も人格も性格もない。ないはずだがまるで人間のように思考をめぐらし感情を持つかのような行動をする。それは生み出される際に使われた多くの魂に少なからず影響されているからなのかもしれない。
ジャノスから、時が来るまで待てと言われて三ヶ月が経った。
「いつまで待てばいいのかな」
遺跡の中を歩き回っては見たものの、それもすぐに飽きてしまった。遺跡の構造もデーゼにはなぜかわかっているのだ。わかっているものを実際に一度見てしまえば何てことはない。
つまらない、ここから出たい。時間があるならそれまで好きに動いたっていいはずだ。なぜこんな所に閉じ込められなれけばいけないのだろう。
ジャノスの指示でデーゼが勝手に遺跡から出てしまわないよう交代制で魔導師が見張りをしていたが、その一人にデーゼは目をつける。
「ねぇ、私にその身体ちょうだい?」
魔導師の耳元にゆっくりと艶かしい声で言うと、魔導師は我を忘れたかのようにボーッとする。焦点は合っていない。
嬉しそうに微笑むと、デーゼは魔導師に口づけをし魂と魔力を吸い込んだ。もぬけの殻になって倒れ込む魔導師を見下ろしながらデーゼの身体がゆらゆらと煙のように消える。
倒れていた魔導師の目が開き、ゆっくりと起き上がった。
その日は月明かりがやけに強い夜、騎士団団員のシュミナールは当直で魔方省内の見回りをしていた。
当時二十一歳だったシュミナールは魔力も剣の腕も強く、将来を有望視されていた。だが本人はその実力にも期待にもあぐらをかくことなく真面目に騎士団としての任務を日々果たしていた。
ふと、人影が目に入る。こんな夜中に歩いているとはどういうことだろうか。声をかけようとした時、その顔に違和感を感じる。数年前に任務先で行方不明になった魔導師にそっくりなのだ。
ここ数年、魔法省では任務先で命を落としたり行方不明になる者がいた。別段珍しいことではないのだが、その多くがなぜか一級以上の力のある魔導師だったため顔と名前をよく覚えていた。
「シェイロさん…ですよね?騎士団の者です。どうしてここに?生きてらっしゃったんですか?」
シュミナールが声をかけるとその魔導師がシュミナールの顔を直視して、にちゃりと笑う。その微笑みは歪んで気持ち悪いものだった。
「美味しそう」
言葉の意味がわからなかったが、シュミナールはすぐに異常さを感じ取って剣を抜く。
「貴様何者だ」
シェイロの身体が突然中身を失ったかのように崩れ落ちると、その横に白い煙のようなものが形を作り始めそれは人の姿になった。
白く長い髪に赤い瞳。妖艶で美しいという表現がぴったりだがそこには底知れぬ恐怖を感じる。
シュミナールは咄嗟に拘束魔法をかけた。
「へぇ、なかなか強そう」
デーゼは嬉しそうにそう言うと、あっさり拘束魔法を解いた。




