それぞれの記憶:ジャノス編
ラウルの姉、ケイトに遺跡を見せたのはケイトが一級魔導師になって半年ほど経ったある日のことだった。
ケイトはジャノスを尊敬というよりも崇拝するレベルであったので、この世の成り立ちとサンクレフト家について理解を示してくれるだろうという算段はついていた。
万が一理解を示してくれなかったとしても、記憶を消して家に返してやればいい。そう思ってケイトに一連の説明をすると、ケイトはあっさりと理解を示し協力すると言ってくれた。
「いいのか?協力するということはもう二度とあの家に戻ることはないということだが」
この世の成り立ちとサンクレフト家について知ったまま元の生活に戻ったとして、誰かに内容を話してしまわないとも限らない。たとえケイトが信頼する相手だったとしても、その相手がまた別の信頼する誰かに話せば自然に広まってしまう。秘密というものはそうやって意図せず暴露されていくものなのだ。
だからこそ、協力すると言うことは実質元の生活には二度と戻れないということになる。ケイトは一瞬考え込む様子を見せたが、すぐにジャノスを見て言う。
「家族に会えなくなるのは辛いです。ラウル……弟にも戻ったら土産話を聞かせると言って出てきてしまいましたし……。でも、ジャノス様がこれからしようとしていることの方がとてつもなく重大なこと。そのお役に立てるというのであれば何を迷う必要がありましょうか」
こうして、ケイトはとある遺跡の調査で獣魔に襲われ命を落としたということになる。実際にはジャノスが集めた有能な魔導師達と共にひっそりと生活をし、人形を造り出すために尽力していた。
そして、エルシュが齢九歳で島国ひとつ滅ぼしたと伝えられることになるあの日。多くの魂と魔力が遺跡の祭壇に集められ、デーゼは造り出された。
祭壇の真ん中には虹色に輝く魔方陣がある。魔方陣を囲むように魔導師たちが並び、そこにケイトとジャノスもいた。ジャノスが片手を上げると様々な形と色をした大量の鉱石が魔方陣の上に現れ浮かんでいる。
魔導師たちが両手を魔方陣に向けると魔方陣の内側に様々な色の靄がかかる。ジャノスが古代語で何か言葉を発すると、続いて魔導師達も古代語で言葉を発した。
魔方陣が煌々と光を発すると大量の鉱石がぐにゃぐにゃと形を変えて融合していく。光が一層強くなり辺り一面が光で見えなくなる。次第に光は弱まり、光が消えるとそこには白く長い髪をなびかせた一人の人間のようなものが浮いていた。
それがデーゼと呼ばれる一体目の人形だった。
人形が目を開く。赤く燃えるように美しい瞳だ。性別はないが髪が長いせいなのか女性のように見える。魔方陣の光も消え、デーゼはゆっくりと地面に降りた。
「あなたたちが私を造り出したの?」
微笑みながら言う声も仕草も艶っぽく、それだけで魔導師の男達はつい色めきたってしまう。
「なぜ生み出されたのかわかっているのだろう」
ジャノスは自らのローブをデーゼに渡し、デーゼは大人しくそれを羽織る。
「もちろん。でもどうせその時まで時間はあるのでしょう?必要な声の持ち主も見当たらないようだし……」
デーゼは周囲を見渡しながら言う。
「声はまだここにはいない。当分お前にはここでおとなしく待っていてもらうことになる」
ジャノスが言うとデーゼはつまらなそうな顔になった。
「どのくらい待たなきゃいけないの?待つのは好きじゃないんだ。あと、お前って言われるの何か嫌」
のびをしながら他の魔導師に艶かしい目線を送ると、視線を送られた魔導師は顔を赤らめそれを見てデーゼは嬉しそうに笑う。
「では、古代語で『終わらせる者』の意味をもつデーゼと名付けよう」
こうしてデーゼは遺跡の中で時が来るのをひっそりと待っている、はずだった。




