偽物と本物
石版と鉱石の扉を通ると、今度は広間のような大きな場所が現れた。見渡してみるが、ここには他に扉はないようだ。
「行き止まりみたいですね」
「道を間違ったんでしょうか……でもそんな感じはしなかったですし……」
エルシュは渋い顔で、サニャは不安そうな顔で言う。
「どこかに隠し扉があるのかもしれない。周囲をくまなく調べてみよう」
一同が広間の中で思い思いに散らばって辺りを調べ始めると、突然霧のようなものが漂い始める。
「皆、視野が悪くなるぞ!周囲に気を付けろ!」
シュミナールが大声をあげて注意するが、あっという間に目の前は霧で覆われた。
「おい!みんな大丈夫か!」
ラウルが聞くと、次々に大丈夫だ!大丈夫です!と返事が聞こえてくる。霧のようなものがだんだんと消えていく。少しずつそれぞれの姿が確認でき始めてホッとするのもつかの間、おかしいことに気づいた。
「おいおい、どういうことだよ」
ラウルの目の前にはもう一人ラウルがいた。ラウルだけではない、エルシュもサニャもシュミナールもダンロットも全員二人ずついるのだ。
「お前誰だよ!」
「はぁ?お前こそ誰だよ!」
ラウルが自分自身に向けて怒声を上げると、目の前のラウルも反論する。
「誰が本物で誰が偽物なの……?」
「私は本物よ。あなたが偽物なんでしょう」
片方のエルシュが顎に手を当てて考える様子を見せると、もう片方のエルシュがエルシュに向かって言う。
「あのっ、えっと、わ、私は私が本物だと思うんですが、ま、まさかあなたが本物なんですか?」
「わ、私は私が本物だと思います……けど……」
片方のサニャが涙目で言うともう片方のサニャも涙目で不安そうに返事をする。
「偽物は敵ということでしょうか」
片方のダンロットが剣を抜いて言う。その様子にもう片方のダンロットも鞘に手をかけいつでも剣を抜ける姿勢だ。
シュミナールは二人とも黙ってお互いに睨みを効かせている。
すると、突然ラウルの目の前に爆発が起こった。咄嗟に防御魔法で防ぐが、突然のことに苛立ちを隠せない。
「おいてめぇ!何しやがる」
ラウルに向けてラウルが攻撃魔法をしかけたのだ。
「たぶん偽物を倒せばここから先に進めるんだろ。だったらお前を倒すのは当たり前だろうが」
ラウルたちの様子に、他の面々も次々と自分へ攻撃をし始めた。戦いが始まるとさらに誰が本物なのか判断がつかなくなる。サニャ二人だけは、攻撃ではなく防御魔法を行おうとするが誰を防御すればいいのかわからず呆然としていた。
それぞれが同じ強さで戦っているため膠着状態だ。
「このままだとどちらかの体力と根気が尽きるまで平行線だぞ」
「根気の強さは負ける気がしないがな」
片方のシュミナールが言うともう片方のシュミナールが口の端をあげながら剣を奮い、その剣をシュミナールが振り払う。
「このままじゃラチがあかないわね」
片方のエルシュが言うと、もう片方のエルシュがすかさず攻撃魔法をぶつけてくる。
「考え事するなんて余裕じゃない。そんな暇ないわよ」
片方のエルシュの攻撃に、もう片方のエルシュは思わず舌打ちをした。
「ダンロット!お願い、もう一人の私を一時的でいいからなんとかして」
片方のエルシュが二人のダンロットに向かって言うと、二人とも一瞬動きを止めたが片方のダンロットがすかさずもう片方のエルシュに攻撃をしかける。それをもう片方のダンロットが慌てて止めに入った。
その様子を見ながら片方のエルシュは手を翳し魔法で結晶魔石を出した。守霊獣からもらった結晶魔石だ。
『美しきその力よ、我の呼び声に答えよ。真実の御魂よ共鳴しその姿を導け』
エルシュの詠唱と共に結晶魔石は煌々と輝きだした。




