それぞれの記憶:ラウル編
異獣魔を倒した草原で、エルシュたちはラウルの話を聞いていた。
「俺には一回り上の姉がいたんだ」
ラウルはぽつり、ぽつり、と話始める。
*
「聞いてラウル。私、一級魔導師になれたの!」
嬉しそうに言うその笑顔を、ラウルは今でも鮮明に覚えている。姉の名はケイト。歳が離れているせいか姉弟の仲はとても良く、ラウルにとってすでに魔法省で働いていた姉は憧れであり目指す存在でもあった。いつも笑顔を絶やさず、ケイトがいるだけでその場が明るくなるような人だった。
ラウルが十三歳の時、ケイトは魔導師の中でも指折りの中に入る一級魔導師になる。ラウルの家系は代々魔法省に勤務しており、そんな中で魔導師として階級を持てることはなんとも誇らしいことだった。
ケイトは筆頭魔導師であるジャノスを尊敬しており、いつもジャノスの役にたちたいと言っていた。そしてラウルの両親もまたそれに賛同した。ラウルも、いずれは魔導師となって魔法省で姉やジャノスと共に働きたいと思っていた。
「今度、ジャノス様と一緒に遠方の任務に行くことになったのよ」
ケイトが一級魔導師になって半年ほど経った頃。嬉しそうに言うケイトに、その時はラウルも一緒になって喜んだ。
「よかったね!姉さんだったらきっとたくさん活躍できるよ」
遺跡の調査で数ヶ月にもおよぶ任務に両親も多少は心配したが、何よりあの筆頭魔導師のジャノスと任務を共にできるということにラウルの家族は全員が手放しで喜んでいた。
「帰ってきたら沢山土産話を聞かせてあげるわね」
ラウルの頭を撫でながらとびきりの笑顔で言うケイトと会話するのはそれが最後になることを、その時のラウルは知らなかった。
ケイトが遺跡の調査中に野獣魔に襲われ命を落としたと聞いた時、さすがの両親もその場で崩れ落ち、ラウルにいたっては信じることすらできなかった。
「私が共にいながら、こんな結果になってしまい大変申し訳ありません」
深々とお辞儀をして謝罪するジャノスに、ラウルの両親はむしろもったいない言葉だと涙ながらに言っていたがラウルだけはジャノスを許すことができなかった。
異獣魔に跡形もなく食い尽くされたため遺体が無いこと。遺品のひとつも残らなかったこと。ラウルにとっては納得のいかないことばかりだ。
何より、ジャノスが共にいながらなぜケイトが殺される前に異獣魔を倒すことができなかったのか。
「なんであんたが一緒にいたのに姉さんは助からなかったんだよ!!」
ジャノスの胸を叩き泣きわめくラウルに、ジャノスはただ一言告げただけだった。
「私のことは一生許さなくていい。恨んでくれ」
その言葉の意味をその時はただそのままに受け止めていた。
だが、今こうしてエルシュたちと共にジャノスの謎を解き明かそうとしていくうちにその言葉に深い意味がこめられている気がしてならない。
もしかしたら、ケイトも人形に魔力と魂を吸われたのではないか。ケイト自身がジャノスの謎の犠牲になっているのではないか。
「姉貴が死んだと言われた時からあいつのことは許せなかったが、あいつの謎に姉貴が関わっていたかもしれないと思うと余計に許せねぇ」
強く握りしめた拳から血が滲み出る。
ラウルのただならぬ様子にエルシュたちはかける言葉もない。風の音だけが静かに鳴り響く中、サニャがラウルの目の前に歩み寄り、血だらけの手を取った。
「ラウルさんの辛い気持ちはわかりました。皆で、お姉さんがどうなったのか突き止めましょう」
サニャはラウルの手を治癒魔法で癒していく。
「ラウルさんの心の傷はこんな風に完全に治すことはできません。でも、それでも皆で一緒にラウルさんの辛さを分け合いたいです。分け合って、ラウルさんの辛さが少しでも軽くなってほしいです」
サニャのキラキラと澄んだ瞳に、ラウルは思わず吸い込まれそうになって息を飲む。
「あっ、私ったら勝手に皆で分け合いたいだなんて言ってしまいました……」
ふと気づいてサニャは申し訳なさそうにエルシュたちの顔を見る。そんなサニャに、エルシュ達はくすくすと笑いだした。
「いいのよ、私も同じ気持ちだし。きっとダンロットもシュミナール団長も同じだと思う」
ね?とエルシュが目線を送れば二人とも深く頷く。
「お前ら……」
ラウルがつぶやくと、エルシュはラウルの顔を見て言う。
「先輩、前に一人で抱え込むなって言ってたでしょう?その言葉そっくりそのままお返ししますよ」
にっこり頬笑むエルシュに、敵わねぇなとラウルはつぶやく。そして、眉を下げながら微笑んだ。
「ありがとうな」




