憎悪と絶望の産物
異獣魔の本体を倒したことで狼の獣魔も消えていた。
「とりあえずは問題なく先に進めそうだな」
「……大丈夫なのか?」
シュミナ―ルが言うと、白髪の男を見た時のシュミナールの様子を気にかけるラウル。他の面々も心配そうにシュミナ―ルを見つめていた。
「あぁ、大丈夫だ。夢で見た白髪の女に顔が瓜二つだったから驚いたが……あれは別人なのだろうな」
別人、人と言っていいのかどうかもわからない存在。
白髪の男はその女を吸収したと言っていた。どちらも恐らくはジャノスが造り出した人形なのだろうが、人形が人形を吸収するとは一体どういうことなのだろうか。
「わからないことだらけですね」
「とにかく洞窟に言ってお師さまに会って色々と確認してみないことにはどうしようもないわ…草原の守霊獣様の言ってたことも気になるし」
しゅんとした顔でサニャがそう言うと、エルシュは拳をきつく握りしめた。
「そういえば」
エルシュがふと思い出したようにつぶやく。
「ラウル先輩、前にお師さまに対してとても怒ってらっしゃいましたよね。昔、何かあったのでしょうか」
シュミナールの過去について話し合っていた時、ラウルは「どれだけ自分の大切な人達を傷つければ気がすむのか」とジャノスへの怒りを露にしていた。
エルシュの問いにラウルは黙り混み、その様子をシュミナールも黙って見守っている。
「できれば今後進む上でお師さまについて少しでも何かしらの情報があるのであれば、共有していた方がいいかと思ったのですが……言いたくないことであれば無理にとはいいません」
エルシュが申し訳なさそうに言うと、ダンロットもサニャも心配そうにラウルを見つめる。ラウルは一同の顔を見ながら大きくため息をついた。
「いや、言いたくないわけじゃない。確かに情報は共有していた方がいいだろうな」
ラウルはエルシュの目をじっと見つめながら答えた。
「俺の姉貴はあいつに殺されたんだ」
*
洞窟の中枢部に魔方陣が浮かび上がり、白髪の男が現れた。
「さて、あっちはすぐに片付けられちゃうだろうから、こっちにそろそろ取りかかろうかな」
目の前には複数の魔導師の躯が重なりあっている。
白髪の男が手のひらに紫や黒に光る複数の結晶を浮かび上がらせると、結晶は空中を移動して躯の上に到着した。
『主を失なった躯よ、ひとつになりて新しき形となれ。憎悪と絶望を糧に邪の化身を呼び起こせ』
白髪の男が詠唱すると躯の上で突如結晶が粉々に割れ、粉々になった破片がキラキラと輝きながら煙のように漂い躯に降りかかる。
躯はボコボコと変形し躯同士が融合していく。表現のしようのない得たいの知れない物体に変形したが、所々に躯の顔が飛び出ている。そして全体からは禍禍しい力が溢れ出ていた。
「憎悪や嫉妬、焦燥や絶望からくる産物はやっぱり見た目も力もあまりよろしくないね。好みじゃないな。でも元々の本体が持ってたものがそんなものばかりだから仕方ないか」
さて、と白髪の男が振り返るとそこにはジャノスがいる。
「弟子たちはもうすぐ来るよ。これを見たらなんて思うかな」
白髪の男の問いかけに、ジャノスは何も答えなかった。




