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草原の守霊獣

 ベルシア周辺はまだ魔法が使えない地域に近いため、渓谷まで直接転移魔法で移動するにはやや不安要素がある。そのためエルシュたちは渓谷手前の草原か森のどちらかまで一度転移魔法で移動するつもりだった。


「草原と森、どちらがいいか…」

「草原にはたしか守霊獣がいるはずだからそこで少し情報を得ましょう。何か役に立つ話が聞けるかもしれない」


 悩むダンロットに、エルシュはそう答えた。


 守霊獣とは、人の手があまり入っていない純粋な土地にいる霊獣であり、その土地とその土地にいる獣魔の守護を司っている。


「草原の守霊獣は確か大人しいはずだったからきっと助けになってくれると思うわ」

「だが渓谷からの魔力で守霊獣も変異してる可能性がある、変異しなくてもなんらかの影響は受けているかもしれない。油断はしない方が良い」


 シュミナールが釘をさす。


「それじゃ、草原まで行ってみますかね」


 ラウルの一声に皆が頷いた。





 草原の奥、渓谷近くの高台にキラキラと光る大きな大きな生き物、守霊獣がいた。一見、ドラゴンにも似た風貌だが威圧感はない。むしろゆったりとおおらかな動きをしている。


 ゆっくりと翼をはためかせ上空に昇ると、大きく大きく翼を動かした。すると翼からキラキラした光が草原一面に広がっていく。


 草原のあちこちににいる野獣魔達がうめき声を上げるとその体に変化が起こり、凶暴化していた野獣魔達が元の姿に戻った。だが元に戻らず凶暴化したままの野獣も少し残っている。


ーー我の力ではここまでか

 

 ゆっくりと降り立った草原の守霊獣は声ではない声でそうつぶやいた。




「!これって守霊獣の力かしら」


 転移魔法で草原の真ん中辺りに到着した瞬間、エルシュは膨大な魔力を関知した。


「混じりっけのない純粋そのものの魔力だから恐らくそうだろうな」


 ラウルもすごいもんだ、と感心する。


「あっちの方から発せられたようだわ、早く行ってみましょう」



 エルシュたちが高台に辿り着くと、守霊獣は待ちわびたかのように鎮座していた。


ーー人の子らよ、我に用があって来たのであろう


 声ではない声で語りかける。


 守霊獣のその大きさにダンロットやサニャは一瞬ひるむが、エルシュやラウルそしてシュミナールは微動だにしない。


「草原の守霊獣様、今回の渓谷からの異常な魔力について知っていることがあれば教えてほしいのです」


ーー知った所でお前たちに何ができる?


「何ができるかはまだわかりません。ですが行ってみてできることがあるのならば最大限力を尽くします」


 ふむ、と守霊獣はエルシュたちを見定めるかのように眺める。


ーーそなたもまた魔力を膨大に抱えているようだが、そうか。お前がそうであったか


 エルシュをじっと見つめそう言うがエルシュにはなんのことかわからない。


「なんのことでしょうか?」


ーーいずれわかる時が来るであろう。人の子らよ、われが渓谷からの魔力についてわかることは数少ない


 ゆっくりと頭を揺らすと優しい眼差しで伝えてくる。


ーーあの魔力は人間の多くの魂と魔力から成り立つものだ。自然に発生したものではない、人為的なものだ。渓谷には複数の魔導師の気配と人ではないモノの気配がある


 その言葉にエルシュたちは顔を見合わせた。


ーーわれは渓谷からのあの魔力の影響からここにいる野獣魔たちを守っている。だがこの力では野獣魔達の変異を完全に抑えることはできぬのだ


 守霊獣は瞳をゆっくりと閉じ、また開いた。


ーーあまり時間がない。お前達に希望を託そう


 草原の守霊獣がフウッと息吹を吹き掛けると、そこに美しく蒼く輝く結晶魔石が現れた。


ーーこれがお前達を守る力になるだろう


 エルシュの目の前に結晶魔石が降り立つ。


「こんなにすごいものをいただいていいのですか?」


 結晶魔石についてはエルシュも文献でしか読んだことのない代物だ。守霊獣から生み出される結晶魔石は持つものに多大なる守護をもたらしてくれるということしか知られていない。


ーーこの異常な状態を早く元に戻してほしいからな、希望を託すと言うたであろう


「わかりました、ありがとうございます!」


 深々とお辞儀をして守霊獣の元を立ち去ろうとしたその時。


ーー美しい銀朱色の髪のおなごよ。今後行く先で何があろうともくじけるでない。そのまなこで自分にとって何が大切なのかを読み解くのだ


 振り返るエルシュに、守霊獣は優しく言葉をかけた。





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