ゼダル兵
エルシュたちがベルシエに着いてすぐ、街の中心部で喧騒が聞こえてきた。
「我らは隣国ゼダルの兵である!ゼダルで情報を盗んだ間者がこの街に逃げ隠れたと聞いた!即刻ここに突き出せ!さもなくば家ひとつひとつをしらみ潰しに探す!」
ゼダル兵の隊長と思わしき一人が声高らかに宣言する。その言葉に街の者はざわめき立つが、間者が逃げ込んだという話は誰も知らない。そもそも間者が逃げ込んだという話自体が嘘である。
他国の領地内に入り込むためにもっともらしい嘘を大義名分として掲げる、それがゼダルのやり方だ。
「どうやら街ぐるみで間者を匿っているようだな。許すまじ行為である。ゼダルの兵士達に告ぐ!今から家々を確認して怪しい奴がいればその場で斬り捨てよ!抵抗する者も同じくその場で斬り捨て、女子供は生捕りだ!」
その一声に兵士たちがうおおおお!!!と声をあげ、街中からは一斉に悲鳴があがる。
「た、大変です!帝都の騎士団がこの街に到着したようです」
突然兵士の一人が駆けつけ、隊長に報告した。
「帝都の騎士団だと?」
隊長がにらみをきかすと兵士が向こう側を指差す。指差す先にはシュミナールたちが悠然とこちらへ向かってきていた。
「誰の許可を得てこんなことをしている!!」
シュミナールのいつも以上に低く通る怒声が鳴り響く。その声にゼダルの兵士も街の人たちも一瞬で静かになった。
「これはこれは帝都の騎士団ではありませんか、どうしてこちらに?」
先ほどとはうって変わって気持ち悪いほどにへりくだるゼダル兵隊長。
「ゼダルの兵士がこの街に向かっていると報告を受けたので偵察に来た。何をしているかと思えばなんだこの状況は。説明してもらおうか」
シュミナールが睨みを効かせると隊長は一瞬怯えた様子をみせるが、すぐに身を整える。
「この街へゼダルで情報を盗んだ間者が逃げ込んだという話を聞き、追ってきたまでのことです」
「その間者を見つけるためにこんな狼藉を働こうとしたのか」
シュミナールはさらに睨みを効かせる。ゼダル兵の隊長はハブに睨まれたマングース状態だ。だが、すぐにキッとシュミナ―ルを睨みつけ大声を出した。
「ひっ、き、貴様ら帝国の犬になど用はない!えぇい、全員に告ぐ、この騎士団たちを殺せ!殺してしまえば問題ない!!」
兵士の数でいえば確かにゼダル兵が圧倒的に優勢で、兵士たちも皆勝てると思っていた。だが、ゼダル兵が騎士団員に襲いかかるも、騎士団員たちは軽々と峰打ちでさばいていく。兵士の数では劣勢でも、実力の差は明らかだった。
「くっ、騎士団を引き連れているお前の首さえ取ってしまえばこちらが勝つ!!!」
ゼダル兵隊長が苦し紛れに言うと、シュミナールは目線だけを向けて一瞥した。
「この俺が騎士団長シュミナールとわかってもか」
シュミナールが鞘から剣を抜く。それだけで怒気が溢れるかのようだ。
「きっ、騎士団長の、シュ、シュミナールだと!?う、嘘だろ!?あの噂に名高い騎士団長がこんなところに!?」
ゼダル兵士が一斉に動揺する。青ざめる者、震える者、気絶する者さえいる。
「シュ、シュ、シュミナール様、ど、どうかご慈悲を……命だけは……」
ゼダル兵隊長も怯えきっていて命乞いを始める。だが、シュミナ―ルは冷ややかな視線を向けたままで、隊長はそれだけで青ざめ、腰を抜かしていた。
「即刻ここから立ち去れ。この件については帝都へ報告し追って処罰が下される。自国に戻っておとなしくしているんだな」
シュミナールの言葉に、ゼダルの兵士たちは一斉に尻尾を巻いて逃げ去った。と、同時に街中に歓声があがる。
「騎士団さま!万歳!!」
「ありがとうございます!!!」




