旅立ちの日
エルシュたちが旅立つ日がやってきた。王城の広場前では、魔法省や騎士団からの見送りや野次馬でごった返していた。
「すみません、不在中よろしくお願いします」
「こっちのことは気にしないでよ。任せて任せて」
「道中気を付けてな」
エルシュが挨拶すると、帝都に残る特級魔導師たちは手をひらひらさせながら笑顔で返事をする。
「せっかくのチャンスなんだから戻ってくる頃にはエルシュのハート捕まえておきなさいよ!」
特級魔導師の一人がコソコソとダンロットにささやく。
「な、何を言ってるんですか……遊びに行くわけじゃないし、それに無事に帰ってこれるかどうかも」
「何言ってるんだよ、帰ってきてくれなきゃ困るって。いい報告待ってるからな」
ダンロットの言葉を遮ってもう一人の魔導師が言う。その言葉にダンロットは目を見開き、微笑んだ。
「……そうですね。ちゃんと帰ってきて報告します」
「サニャちゃん、ちゃんと寝れたか?」
ダンロットたちのすぐ近くでは、ラウルとサニャがいる。心配そうなラウルの様子に、サニャはえへへ、と照れ笑いをした。
「実は同行が認められてからホッとしてしまったのか、連日ぐっすりでして……」
予想外の返答に、ラウルは思わず微笑んだ。
「短期間であれだけの魔法を習得したんだ、疲れがたまってたんだろうな」
偉いよ、と誉めるとサニャは顔を真っ赤にする。そんな二人の様子を見て、エルシュは小さくため息をついた。
「ラウル先輩にだけはサニャのこと近づけたくなかったのにな」
「でもきっとラウルさん、サニャちゃんに本気だと思う。本人は自覚してないみたいだけど」
ダンロットの言葉にエルシュは目を丸くする。
「え、あの超絶女たらしが!?」
「おい、よくわかんねぇけど最後の悪口だけ聞こえてんぞ」
ラウルがそう言うと、エルシュとダンロットは目を合わせてクスクスと笑った。それから、エルシュは真剣な表情になって周囲を見渡す。
エルシュとラウルそれぞれが転移魔法で全員を移動させる手筈になっており、エルシュにはダンロットとその部隊の半分が、ラウルにはサニャとシュミナール、ダンロットの残りの部隊が一緒に付いた。
「大丈夫だから、エルシュ。お前のことは俺が守る」
ダンロットがいつかの言葉を言う。またあの時と同じように返事をしようとして、ふとエルシュは止まった。
「……うん、ありがとう」
エルシュの返事にダンロットは一瞬驚いたが、すぐに嬉しそうに微笑み、エルシュも微笑み返した。
「それじゃそろそろ行きましょうか」
エルシュがそう言うと、シュミナ―ルは全体を見渡してからニアへ視線を向けた。
「ニア、帰ってくるまでの間、騎士団のことはお前に一任する。よろしく頼んだぞ」
「はっ!どうかご無事で。ご武運を!」
ニアは握りしめた片手を胸に当てニシュミナールを見つめ、シュミナールもまたニアと視線を合わせてしっかりと頷いた。
エルシュたちの足元に魔方陣が浮かび上がり、エルシュ達はその光に包まれて、消えた。




