演習試合
あっという間に時は流れ旅立ちまであと三日、サニャが調査の旅に同行できるかどうか判定が下される日がやってきた。
魔法省の演習場にはサニャと副団長のニアが向かい合っている。
「サニャの強さがどれほどになったか判定するために、ニアとの演習試合を行ってもらう」
シュミナールは低い声で言い放った。
「私情を挟まないために任務に向かう人間以外の者との演習試合だ。ニアは魔法にも剣術にも優れている、そのニアと互角に戦える位にはなっていないと同行は認められない」
シュミナールの言葉に、サニャは緊張した面持ちになる。
「きゃー!ニア様よ!素敵ねぇ」
演習場の観客席には、演習試合を聞きつけた野次馬が黄色い声をあげていた。ニアはその容姿から男女問わず人気があり、強さも相まって中性的な容姿の男性と思い込んだままのファンも多い。ファンに限らず新人の騎士団員などはニアのことを男性と思っている者もいる。そしてニアは別段そのことを気にも留めていなかった。
「ニアは相変わらず大人気だな」
「ラウル先輩とはまた違った人気ですよね。ラウル先輩は女性にしかモテないけど、ニアさんはファン層がちょっと違うっていうか」
ニアの人気を眺めながらエルシュはすごいなぁと感嘆した。
「ニアのことを男だと思ってるやつも多いからな、さらには女性としても人気だし。かなわねぇよ」
「私も最初は男性だと思ってましたから、女性と知った時は驚きましたよ」
「俺もニア副団長の配下になるまでは接点があまりなかったので、てっきり男性だと思ってました」
エルシュとダンロットも口を揃えて言う。
「俺もシュミナールもはじめは女性ってわかんなかったからな。本人は家の事情で途中まで男として育てられたらしい」
ニアが騎士団に来た頃にはまだシュミナールも団長ではなく隊長補佐で、ニアはシュミナールがいる部隊に配属になった。
「女性と分かってからもシュミナールは今までと変わらず騎士団員として厳しく指導していたからな、ニアからの信頼も厚いんだろうよ」
今回サニャの相手を務めるのもシュミナールからの依頼ですぐに承諾したらしい。
「ニア、手加減する必要はない。任務に同行できるかどうかの判断のためだ、命さえ取らなければ構わん」
「はっ、かしこまりました」
シュミナールの言葉に、ラウルは厳しいねぇと眉を顰める。だがサニャはその真剣な瞳をニアから逸らさない。
「それでは、はじめ!」
始まりの号令と共に双方の周りに複数の魔方陣が浮かび上がりサニャの周りに複数の爆発が起こる。粉塵が消えるとそこには無傷のサニャがいた。
だが粉塵が全て消える前にニアが突如サニャの前に現れる。
「は、速い……!」
サニャが思わず口にするとニアの剣が振ってきた。すかさず無詠唱で二重の防御結界を張り何とか剣を跳ね返す。
サニャもニアの周りにブリザードを起こすがニアは相殺魔法で打ち消した。お互いに無詠唱で次々と魔法攻撃を繰り出す様子を、エルシュたちは黙って見守る。
攻撃を繰り返しならニアはおかしい、と思った。確かに事前に聞いていたサニャの強さよりは格段に強くなっているだろうことはわかる。だが、任務に同行するための強さが果たしてこの程度だろうか。
剣の一振りで風の刃がサニャに襲いかかるがサニャは無傷のままだ。ニアは本気は出していないが手を抜いているわけではない。ニアの攻撃であれば特級未満の魔導師であれば無傷ではいられないはずだ。
何かを思い立ったニアは不敵な笑みを浮かべながら剣を構える。すると、剣から凄まじい量の魔力が浮かび上がり剣を包むように強大な力が集まっていく。その様子を見たサニャは、すかさず両手を前にかざして詠唱を始めた。
『大地よ、その大いなる力で主となるものを防御せよ。強壁は全てを阻止し打ち砕かん』
サニャの目の前にオレンジ色の光が発生する。
『いでよ、ロッククレモス!』
ニアが剣から強大な力を撃ち飛ばしたのとサニャの詠唱が終わるのがほぼ同時だった。攻撃が届く瞬間に演習場全体に大きな衝撃と爆音が鳴り響く。粉塵が起こりサニャの姿は全く見えない。
少しずつ粉塵が風で流れていくと、演習場に巨大な壁が出現していた。巨大な壁の内側にサニャはいて、壁とサニャの周囲の床だけがごっそりと抉られていた。
「やっぱりそうか」
ニアは剣で肩をトントンと叩きながら不敵な笑みを浮かべながら言う。
「団長、これではいくら攻撃しても傷ひとつつけられませんね。こちらも別に負傷はしませんしこのまま戦っても平行線かと思われます」
ニアの言葉にシュミナールは目を細める。
「分かった。演習試合はここまでとする。サニャは魔法省の会議室へ来い。そこで任務に行く人間全員で判定を下す」
サニャは不安げな面持ちで観客席にいるエルシュとラウルを見るが、二人とも読めない顔をしている。
「ニアは騎士団本部へ戻って良い。手間をかけたな」
「いえ、お役に立てたのであれば幸いです」
ニアはシュミナールに笑顔で答えるとサニャの方へ歩いてきた。
「サニャちゃん、お疲れ様。またいつか手合わせしましょう」
ポンポンとサニャの頭を撫でながら騎士団本部へと戻って行った。
「ニアさんすごく強かったけど、優しい……」
サニャはほうっとため息をつきながら呟いた。




