作戦会議
旅立ちの日まで1週間をきったとある日、魔法省の会議室で打ち合わせが行われていた。
「騎士団からは俺の他にダンロットの部隊が同行する」
シュミナールの言葉に、ダンロットは会議室にいる皆の顔を見ながら深く頷いた。
「目的地までの道順だが、まずはカルドナ領内の関所までエルシュとラウルの転移魔法で移動する。そこからベルシエまでは魔法が発動できない地域のため馬を使う。ベルシエまでの道には魔法が使えない魔導師を狙った盗賊も多いと聞く。そのためにも剣術に長けたダンロットの部隊を同行させる」
騎士団の騎士たちも基本的な魔法は習得し使えることになっている。だが帝国領土内には魔法が発動できない地域が少なからず存在し、その場所での任務のために剣術に特化した部隊もある。
そしてダンロットの部隊は剣術に特化した部隊の中でも上位に入る部隊だ。
魔法が発動できない地域についてはなぜ発動できないのか何度も調査隊が送られているが、未だに解明はされていない。
「ベルシエに到着する頃には恐らくゼダルの兵士達も到着する頃だろう。なるべく先に到着しておきたいが間に合うかどうかというところだ。ゼダルとはなるべく交戦にならぬように場を治めたいと思っている」
ベルシエの民達を巻き込みたくはない。なるべく穏便に、こちらの威厳を示すだけで退散してもらうのが得策だ。
「今の所の流れとしては以上だ。何か他に周知することがあれば言ってくれ」
シュミナールが全員を見渡すとエルシュが静かに手をあげた。
「ダイナの不審死についてお知らせしたいことがあります」
エルシュがおもむろに一冊の本を机に置いた。
「ダイナの不審死について何かヒントになるものはないかと図書館で調べていましたがこれといって特にありませんでした。ですが、もしかしたらと思いお師さまの書庫を調べました。」
元筆頭魔導師であるジャノスの書庫は図書館内の一角にあり、筆頭魔導師以外は入室できないことになっている。だがエルシュは現在ジャノスの代わりに筆頭魔導師としての役割を担っているため唯一入室が可能だ。
「お師さまは何か研究をなさっていたようで、直筆の書記のひとつに、『魔導師の魔力と魂を吸い込む人形の器』という一文がありました」
その言葉に場の一同が一斉にエルシュを見つめる。
「簡単には解読できないようにするためかご丁寧に古代文字で記されていたので詳しくはまだ解読できていませんが、その器が何かに必要となる重要なもののようです」
ダイナは魔力が全く残っておらず脱け殻のようになっていた、もしあの不審死がその人形の仕業だとしたら。
「……わかった。エルシュは引き続きジャノスの書記の解読を頼む。もしかすると膨大な魔力が出ている洞窟も何かしら関係があるかもしれない。」
「その後サニャの様子はどうなんだ」
会議が終わりエルシュたちが会議室を立ち去った後、シュミナールはラウルに声をかけた。
「張り切って特訓してるよ。
ラウルは覇気のない返事をする。
「お前はそれでいいのか?」
「いいわけねーだろ。でもサニャちゃんの決意はめちゃめちゃ固いしな。もちろん弱いままであれば絶対に同行はさせない」
いつものお調子者のラウルはどこへやら、真面目な顔で一点を見つめて答える。
「あの子であればもしかしたらもしかするだろうな」
「……そう思うか」
ため息をついてラウルはシュミナールを見た。いつもは自信満々で怖いものなどどこにもないと言わんばかりなのに、真面目な顔の下には不安げに揺らぐ様子が伺える。
「なぁ、もし万が一サニャちゃんが同行することになったら、あの子のこと守ってあげてくれないか」
「あの子を守るのはお前の役目だろう。俺に押し付けるな」
押し付けられているわけではないことは重々承知だ。それでもシュミナールはラウルへあえてそう答えた。
「……そうだな」
先ほどまで現れていた不安げに揺れる心を隠して、ラウルはいつもの調子でニヤリと微笑んだ。