強くなりたい
皇帝への謁見が終わってエルシュとラウルはどうやら会議室にいるらしいと聞き付けたサニャは、会議の邪魔をしないように会議が終わるまでは扉の前でおとなしく待っているつもりだった。
会議室の前にたどり着くと、扉が少しだけ空いている。さらには二人の声もほんの少しだが聞こえてきてどうやら自分のことを話しているようだ。そうなると盗み聞きしたいと思わなくても自然に聞き耳を立ててしまう。
「俺たちだけでなんとかするしかないか」
「そうですね、なんとかしましょう!私とラウル先輩ならなんとかなりますって」
その言葉を聞いた瞬間、いつの間にか勢いよく扉を開けてしまっていた。
「そんなのダメです!!」
サニャの姿に一瞬ぽかんとするエルシュとラウル。だが次の瞬間、サニャがいることに驚きとほんの少しの怒りがわいてしまう。
「どうしてここにいるのよ、まさか盗み聞きしてたの?」
怒ったようなエルシュにサニャは一瞬ひるんだ。だが、やはりサニャの強い意志は変わらない。
「盗み聞きするつもりはなかったんです。会議が終わるまで扉の前で待っていようと思ったら扉が少し空いていて声が漏れてて。私の名前が聞こえてきたから……」
最後に会議室に入ったのはラウルだ。恐らく扉を閉じたつもりになっていたのだろう。エルシュがじとっとした目でラウルを見ると、やっちまった!という顔をして焦っている。
「私の感知魔法が必要なんですよね?確かに私は魔導師としては若輩者です。一緒に行くことでお二人に迷惑がかかるのであればもちろん行こうなんて気持ちにはなりません。でも、私がお役に立てることがあるなら……」
「そうであってもやっぱり連れて行きたくないのよ。本当に危険で命の保証ができない場所かもしれない」
サニャの言葉を途中で遮ってエルシュはそう告げる。
「俺もエルシュの意見に賛成だ。サニャちゃんはおとなしくお留守番して俺たちが帰ってくるのを良い子にして待っててくれよ」
口調はいつもの調子だが、その顔は真面目そのものだった。
二人の様子にサニャは傷つく。大好きな先輩たちの役に立てるかもしれないのに、弱いというだけで置いていかれる。今はただ守られるだけの立場なのだ。
「……旅立ちはいつの予定なんですか」
ぎゅっと拳を握りしめ、サニャは尋ねた。
「もろもろの準備と計画を立てるから早くて2週間後ね」
「だったら、その2週間の間で猛特訓します。お二人の足手まといにならないくらい、心配されないくらいにまでは強くなります。だからちゃんと強くなれたら、連れていってください!」
サニャの真っ直ぐさと強い意志がそのキラキラと輝く瞳からよくわかる。その純粋な真っ直ぐさがいつも羨ましくて時に怖いのだとエルシュは思った。
エルシュとラウルは目を合わせて同時にため息をつく。
「どうしたってその決意は曲げられないんだろ?」
「はい!」
ラウルは呆れたように、そして大切なものを見るようにサニャをじっと見つめる。
「2週間後に俺たちが納得のいく位サニャちゃんが強くなっていたら連れていってやる」
「ラウル先輩!」
ラウルの返答にエルシュは異を唱えようとしたが、ラウルは片手でそれを遮った。
「俺たちってのはシュミナールも含めてで、だ。誰か一人でも納得しなければ連れていかない。いいよな?」
「……わかりました」
エルシュはしぶしぶ承諾し、サニャはとびきりの笑顔になった。
「絶対に強くなってみせます!」